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行動の種差を規定するゲノム・遺伝子相関の解明

東北大学 生命科学研究科 山元 大輔


[図:雄の求愛を開始させるP1ニューロン群(小金澤雅之原図)と同性間求愛を示すsatori変異体雄(小川もりと撮影)]

 交尾前生殖隔離は多くの動物で種間交雑を妨げる主因の一つとなっている。それは別種の雌雄が相互を隔てる「コンフリクト」を感知して、交尾に至ることなく“やり過ごす”過程であり、その背後には種の特徴を抽出して行動の選択を行う神経回路の働きと、その種特異性を決定付けるゲノムの制御があると思われる。種分化過程では、雌雄協調的な選好性の変化が一部の個体に生じて種内に行動特性を異にする亜集団を作り出し、最終的には親集団との間に生殖隔離を導くことが推察される。しかしこうした選好性の変化をもたらす遺伝的変異の正体は不明であり、その変異によって引き起こされる神経回路の変容の実体は謎に包まれている。そこで本研究では、遺伝学のモデル生物の一つ、Drosophila melanogaster(キイロショウジョウバエ)とその同胞種、D. simulans(オナジショウジョウバエ)を主たる材料として、この問題に迫る。
 我々はこれまで、もっぱらmelanogasterを材料として、その性行動を支える遺伝子と神経回路の解析を行ってきた。雄が雌にほとんど求愛せず、雄に求愛して行動的不妊となる突然変異体、satoriの分離に端を発したこの研究は、その原因遺伝子、fruitless(fru)のクローニングへと発展し、現在ではこのfruが、雄の性行動を生み出す神経回路の主要部を規定する遺伝子として注目されるに至っている。fru遺伝子は1000個余のニューロンに発現し、その一部は一方の性に固有であり、また多くは性的二型を示す。fru転写物は雄の神経系でのみ翻訳され、その結果生じるFruタンパク質は、クロマチン因子を染色体の特定サイトに動員してニューロン一つ一つの性を全か無か的に決定する。こうしてfruは神経細胞の性分化をもたらし、回路形成をも制御して性行動を規定すると考えられる。
 ならば、性行動の種特異性を決定付けるのもまたfruなのであろうか。その機構はどのようなものなのか。melanogastersimulans、さらにその雑種個体に於ける配偶パートナーの選択に着目し、二種のfru遺伝子、二種のゲノムが、種ごとに異なる脳の神経ネットワークを築き上げ、交尾前生殖隔離を実現するメカニズムを探る。

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