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遺伝子のせめぎ合いから遺伝システムへ:
制限修飾系を手がかりとする探究

東京大学 新領域創成科学研究科メディカルゲノム専攻 小林 一三
基礎生物学研究所 ゲノム情報研究室 内山 郁夫
総合研究大学院大学
 先導科学研究科・生命共生体進化学専攻 佐々木 顕
東京大学 新領域創成科学研究科メディカルゲノム専攻 古田 芳一
東京大学 新領域創成科学研究科メディカルゲノム専攻 矢野 大和

 「よく似ているが同一ではないDNA配列が出会い、両側の組み換え(交叉)を起こし、別れていく」という過程が、「性」あるいは「遺伝システム」です。原核生物(細菌・古細菌)では、ゲノムの一部が取り換わります(「局在した性」)。この奇妙な過程は、なぜあるのでしょうか。
 代表研究者は、このような相同組み換えの分子機構を研究して、「片方の二重鎖DNAに二重鎖切断ができ、それが他方のDNAを鋳型として修復され(遺伝子変換)、その時に両側の組み換え(交叉)が伴う」という「二重鎖切断修復モデル」の提案者のひとりとなりました。さらに、このモデルを原核生物で証明しました(Takahashi & Kobayashi PNAS 1990)。
 DNA二重鎖切断は、原核生物では、しばしば制限修飾系によって作られます。制限修飾系で、修飾酵素は特定のDNA配列にメチル基(-CH3)を付けます。メチル化のしるしは、ATGCというDNA配列そのものではありませんが、DNA複製の度に付けられるので、遺伝することになります。「エピジェネティックな」しるしということになります。制限酵素は、このメチル化というしるしを持たないDNAを「非自己」とみなして、切断し、死なせます。
 私たちは、制限修飾系が「侵入するDNAだけでなく、自分のいる細胞の染色体をも攻撃する」という自己免疫様の過程を発見しました(Naito et al. Science 1995)。制限修飾系は、特定のエピジェネティックな「自己」状態を、ゲノムに強制するシステムと言えるでしょう。
 これから、制限修飾系は、ホストと利害を異にするウイルスのような「動く利己的な遺伝子」であると提唱し、それらの生き物としての研究という領域を切りひらいてきました。それらが、ウイルスやトランスポゾンのような生活環と制御機構をもち、相互に競争し、動き回り、ゲノムを維持すると共に再編することを、実験・ゲノム比較・理論から明らかにしてきました。
 原核生物の二重鎖切断修復型の相同組み換えは、制限修飾系への対抗手段と考えるとうまく説明出来ます。真核生物の二重鎖切断修復型の相同組み換えも、ゲノムにある(エピジェネティックな意味での)「非自己」状態への対抗手段ではないかと提唱しました。
 本研究では、このような「異なるゲノム間遺伝子間のせめぎ合いに対処するために、遺伝システムが進化した」という仮説のもとに、
A. 制限修飾系が関わるせめぎ合いについて、「分子レベル」で明らかにします。
B. せめぎ合いのもたらすDNA 切断(死)・組み換え修復(再生)・ゲノム再編(進化)の、「集団レベル」での解析から、遺伝システムの成立根拠に迫ります。
http://www.ims.u-tokyo.ac.jp/ikobaya/

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