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マウスにおける母仔遺伝的コンフリクト回避機構の解明

徳島大学 疾患プロテオゲノム研究センター ゲノム機能分野 岡崎 拓
徳島大学 疾患プロテオゲノム研究センター ゲノム機能分野 岡崎 一美

 哺乳類では、胎盤を介して母体から胎児に栄養や酸素が供給されるが、このとき、母体の免疫系が胎児の抗原と必然的に遭遇する。胎児は父親由来の遺伝子を半分持っているため、母体とは異なる抗原を多数発現しているはずだが、基本的に母体の免疫系が胎児を異物と見なして拒絶することは無い。胎児が母体の免疫系によって拒絶されないことは免疫学者にとって大きな謎であり、古くから議論や研究の対象とされてきた。これまでに、MHCの胎盤における発現抑制、トリプトファン代謝酵素IDOによる胎盤局所でのトリプトファンの枯渇、制御性T細胞による免疫抑制等が、母児免疫寛容の成立・維持に関与すると報告されているが、その全貌は依然未解明である。
 ヒトにおける自然流産の頻度は10~20%とされているが、過去の流産回数が増えるに従い、次の妊娠時の流産率が高くなることが知られている。また、子宮の形態異常、ホルモン異常、染色体異常等の明確な原因が同定できないものが多いことから、母児免疫寛容の不全が流産の主要な原因だとする意見もある。
 我々はこれまでに、PD-1およびLAG-3という免疫抑制受容体がリンパ球の過度な活性化を制御することにより自己免疫疾患の発症を抑制していることを明らかとして来た。母体にとって胎児は、父親由来の抗原を発現するという意味では異物(非自己)であるが、母体内において母親由来の抗原を発現するという意味では自己であるため、母児免疫寛容と自己免疫寛容は極めて関連が深く、同様のメカニズムによって制御されている可能性も高いと考えられる。そこで本研究では、マウスモデルを用いて母仔免疫寛容における免疫抑制受容体の機能を解析するとともに、母仔免疫寛容に異常のあるマウスモデルを作製してその遺伝要因を解析することにより、母児免疫寛容の成立・維持機構を解明することを目的とする。
 将来的には、習慣性流産の新規診断・治療薬の開発につながると期待される。また、習慣性流産だけでなく、免疫寛容が関与する臓器移植片の拒絶や自己免疫疾患、がんの免疫療法等についても新たな知見を与える可能性が期待される。

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