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陸上植物の世代交代を制御する
エピゲノム・遺伝子発現相関の解明

基礎生物学研究所 生物進化研究部門 玉田 洋介
東京工業大学 生命理工学研究科 木村 宏
金沢大学 学際科学実験センター 榊原 恵子
基礎生物学研究所 生物機能解析センター 重信 秀治
基礎生物学研究所 生物進化研究部門 長谷部 光泰

 陸上植物の生活環は配偶体 (n) 世代と胞子体 (2n) 世代によって構成され、受精によって配偶体世代から胞子体世代へと世代交代を行う。受精とは、配偶子である卵と精子、または卵細胞と精細胞が接合することによって接合子となる現象を指し、その後接合子は胞子体世代の発生プログラムを開始する。つまり世代交代とは、「異なる二種類の配偶体ゲノムが出会うことで、胞子体の発生プログラムに適した状態にゲノムが再構成(リプログラミング)されること」と言いかえることができる。こうした、細胞の運命を決定するゲノムの状態はエピゲノムと呼ばれ、主にクロマチン(ゲノムDNAとそれを巻き付けるヒストンタンパク質の複合体)の化学的修飾によって規定される。複数のクロマチン修飾が相互作用し、遺伝子の発現を制御することで細胞の運命決定に寄与すると考えられている。しかしながら、受精後の接合子におけるクロマチン修飾群の動態や、複数種のクロマチン修飾がどのように相互作用しながら遺伝子発現を制御し、胞子体の発生プログラムを確立しているのかについてはほとんど分かっていない (Kinoshita et al., 2008, Semin Cell Dev Biol Vol. 19) 。
 そこで、本研究ではクロマチン修飾群と遺伝子発現との相互作用を「エピゲノム・遺伝子発現相関」と名付け、陸上植物の世代交代を制御するエピゲノム・遺伝子発現相関を、コケ植物ヒメツリガネゴケ (Physcomitrella patens) を用いて解明することを目的とする。
 近年、ヒメツリガネゴケにおいて、クロマチン修飾の一つヒストンH3の27番目のリジン残基のトリメチル化 (H3K27me3) を触媒する唯一の酵素P. patens CURLY LEAF (PpCLF) の発現が受精によって接合子から消失すること、さらに配偶体世代においてPpCLFが胞子体の発生プログラムの抑制に機能することが明らかにされた (Okano et al., 2009, PNAS Vol. 106) 。H3K27me3は転写抑制に機能し、多様な多細胞生物において細胞の運命決定に主要な役割を果たすことが知られている。本研究では、受精によるPpCLF/H3K27me3の消失により他のクロマチン修飾のレベルがゲノムワイドに変化し、その結果複数の遺伝子が脱抑制されることで胞子体の発生プログラムが確立されるという仮説を立て、それを検証することで、陸上植物の世代交代に機能する「エピゲノム・遺伝子相関」の解明を目指す。

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