HOME > 班員名簿 > シス調節配列多型に依存するマウス亜種間雑種のトランスクリプトームの解析

班員名簿|新学術領域|ゲノム・遺伝子相関

シス調節配列多型に依存するマウス亜種間雑種の
トランスクリプトームの解析

情報・システム研究機構新領域融合研究センター 岡 彩子

 種分化途上の生物集団の雑種個体は、生殖力が低下して次世代を残せない 「生殖隔離」と呼ばれる現象を示すことがある。生殖隔離が起こる遺伝的メカニズムとして、相互作用する二つ以上の遺伝子が各分離集団において独立に進化すると、雑種個体では遺伝子間の相互作用に不適合が生じるためと説明されてきた。また、生殖隔離には、X染色体上の遺伝子が関与する場合が多いことも知られている。しかし、遺伝子間の不適合の具体的な分子機構については、ほとんど分かっていない。
 本研究では、哺乳類であるマウスを材料にして生殖隔離の分子機構について研究を行っている。日本産野生マウスと西ヨーロッパ産野生マウスは、約50万年前に共通祖先から分岐しており、別亜種の関係にある。両亜種間の雑種個体は雌雄ともに生殖能力を持つが、雑種交配の後年世代では生殖力の低下が観察され、両亜種が種分化の途上にあると考えられる。また、西ヨーロッパ亜種由来の実験用系統であるC57BL/6のX染色体を日本産野生マウス由来のMSM系統のX染色体で置換したコンソミック系統では、精子形成の異常により雄の生殖力がなくなることがわかっている。そこでX染色体コンソミック系統の精巣を用いた網羅的遺伝子発現解析を行ったところ、MSM系統から持ち込まれたX染色体において、遺伝子発現の顕著な変動が起こることが確認された。このことは、遺伝子の発現調節機構が、各々の亜種において独自に進化しており、別亜種のX染色体と常染色体が再び出会った際に遺伝子発現調節の不適合が生じることを示している。また、この遺伝子発現の変動は、特に生殖に関連する遺伝子に顕著であることが分かった。これらの結果から、遺伝子発現の不調和が生殖隔離の根底にある現象である可能性が示された。本研究課題では、コンソミック系統から樹立したES細胞を用いて、遺伝子の転写調節に重要なエンハンサーやプロモーターなどのシス調節領域と転写因子などのトランス因子の相互作用において、亜種間多型の及ぼす影響を分子レベルで理解することを目的とする。

班員名簿に戻る

ページトップへ|新学術領域|ゲノム・遺伝子相関