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SRYをもたない哺乳類における新しい性決定遺伝子の同定

北海道大学 大学院理学研究院 生物科学部門 黒岩 麻里

 哺乳類では、Y染色体上のSRY(sex determining region on Y) 遺伝子が性を決定している。Y染色体を受け継いだXY個体では、初期胚中の未分化生殖腺においてSRY遺伝子が発現する。SRY遺伝子は、転写因子としてSOX9(SRY-box 9) 遺伝子の発現を上昇させる。SOX9遺伝子は、セルトリ前駆細胞をセルトリ細胞へと分化させ、未分化生殖腺が精巣へと分化するのを導く。一方、XX個体では、SRY遺伝子が発現しないため、卵巣分化にはたらく遺伝子群の作用により卵巣分化が導かれる。このSRY遺伝子が引き金となる性決定の仕組みは、ほとんどすべての哺乳類(有胎盤類)に保存されている。
 しかし、南西諸島に生息するトゲネズミ属は、SRY遺伝子に依らない新しい性決定の仕組みを獲得している。アマミトゲネズミ(Tokudaia osimensis)は奄美大島に生息する日本の固有種であり、Y染色体をもたず、SRY遺伝子も消失している。よって、雌雄ともにX染色体1本だけをもつXO/XO型の性染色体構成であり、染色体数も奇数となる (2n = 25)。哺乳類のY染色体には、SRY遺伝子以外に、精子形成や精巣発達などにはたらく雄性に必須な遺伝子が存在しているが、我々の先行研究により、アマミトゲネズミでは、SRY以外の元Y染色体連鎖遺伝子は、X染色体長腕末端部に転座することにより、雌雄のゲノム中に保存されていることがわかっている。また、SRY遺伝子の下流ではたらく性分化メカニズムが保存されていることから、アマミトゲネズミでは、SRY遺伝子に代わる新しい遺伝子が性決定の引き金を担っていることが予想される。よって、本研究では、アマミトゲネズミが獲得した新しい性決定遺伝子を見つけ出すことを目的とし、全ゲノム配列を雌雄間で網羅的に比較する。さらに、得られた候補遺伝子をマウスに遺伝子導入することにより、性決定の機能を明らかにする。

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