研究経過

【著書執筆】「エッセンシャル植物生理学-農学系のための基礎-」を講談社サイエンティフィクより発刊(清水班)

October 26, 2022 5:26 PM

Category:アウトリーチ活動, 論文発表

main:清水班

 まだ学生の頃、とある先生から「書籍は書いた瞬間から古くなる だから意味がない!!」というようなことをいわれて、距離をおいてきたのですが、年を取ったのか、「自家不和合性」、「受粉反応」、「生殖」、「植物・作物」を振り返ったとき、これまでとは違ったものを残すことができればよいのではと思い、執筆を。2年ほどかかりましたが、班員の方にも写真提供など頂きました。ありがとうございました。著書は、

著書名 エッセンシャル植物生理学 農学系のための基礎
著者   牧野 周/渡辺正夫/村井耕二/榊原 均・著
発行   2022/10/20
ページ数   272 page
出版社 講談社サイエンティフィク
ISBN   978-4-06-529581-6

DSCN4037.JPG 副題に「農学系のための基礎」としたのは、作物の理解という点からのこうした書籍がなかったので、できるだけ「農学、作物」を意識した書籍になっています。それは「植物生理学」とは違うという方もいらっしゃるのかも知れないですが、ある種の出口も意識しつつ、基礎研究を深めるためには大事なことではないかと思っています。そんなこともあり、広く「植物科学」的な捉え方に加え、植物科学発展の歴史、形態学、遺伝学なども1冊の書籍に詰め込みました。書店、アマゾンなどで手に取って頂けるとありがたいです。
 班員に限らず、次の世代を背負うであろう小中高生などへのアウトリーチ活動にも反映できるかと思っています。あわせてご活用下さい。なお、本書籍の簡単な説明記事、2min程度の動画を用いたほぼ全ページをカバー・紹介したへのlink先などを渡辺の研究室のHPにまとめました。あわせて、ご覧下さい。

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わたなべしるす

ケシ科植物の自家不和合性に関する解説記事が掲載されました

September 27, 2022 3:10 PM

Category:論文発表

main:藤井班

計画研究班の藤井(東京大学)が、ケシ科植物の自家不和合性のメカニズムについて解説した記事がCurrent Biology誌に掲載されました。

植物の半数以上は、雌しべにおいて自分と他の個体の花粉を見分けるしくみをもっており、自家不和合性と総称されています。自家不和合性には様々なタイプの分子メカニズムがありますが、ケシ科植物は雌しべからPrsSと呼ばれるペプチドを分泌して、花粉でPrpSと呼ばれる受容体タンパク質で感知するしくみをもっています。このPrsSとPrpSが自己に由来するものであれば、相互作用します。そして花粉が自己拒絶反応を起こし、細胞死するため自家不和合性になると考えられています。

最近、このPrsSとPrpSが相互作用することで引き起こされる自己拒絶反応において、細胞中の急激なATP低下が中心的な役割を果たすことが報告されたため、その研究を解説する記事を書きました。ATPは生命の共通エネルギー通貨と呼ばれる重要な分子ですが、ケシ科の自家不和合性では自己拒絶反応が起きた2分以内に速やかにATPが枯渇することがわかりました。ミトコンドリアや葉緑体でつくられるATPの、エネルギー資源としての機能はよく研究されているものの、シグナル伝達におけるその役割には未知の部分が多く、今後細胞生理においてどのような役割を果たすのかが明らかになっていくことが期待されます。

<発表論文>

Sota Fujii,

Plant physiology: ATP at the center of self-recognition,

Current Biology, Volume 32, R962-R964, 2022

https://doi.org/10.1016/j.cub.2022.08.004

作物の栽培化と倍数体化の関係についての総説を発表しました(赤木班、清水班)

September 20, 2022 10:40 AM

Category:論文発表

main:清水班, 赤木班

赤木領域代表(岡山大学)と計画研究 清水教授(横浜市立大学・チューリッヒ大学)の共同執筆による総説が、Current Opinion in Plant Biologyに掲載されました。

古くから植物の倍数化と栽培化の間には密接な関係があり、現存する作物の多くは倍数体であることが示唆されてきました。一方、それらの因果関係や、栽培化における倍数化の意義などは十分に定義されておらず、多くの議論が繰り広げられていました。本総説では、倍数体である作物群の詳細な倍数性進化と栽培化の過程・順序を定義し、その寄与を最新の分子生物学的知見も交えて考察しています。とくに有性生殖の観点から見ると、倍数体作物には自殖性が多いことが知られていましたが、その分子基盤の解明が進んでいます。カキ属では二倍体野生種が雌雄異株であるのに対し、六倍体栽培種ではエピジェネティック制御を介して雄花、雌花が同一個体に作られて自殖が可能になりました。さらに、重複遺伝子の新機能獲得により、両性花をつくる系統も進化しました。また、アブラナ科ではセイヨウアブラナなど異質倍数体種が自家不和合性を失う傾向があり、S-遺伝子座のsmall RNAによるサブゲノム間の抑制的相互作用が重要だと考えられます。近年のゲノム解析技術とバイオインフォマティクス手法の進展により、倍数体作物の研究が急速に進むことが期待されます。

 

図:カキ属とアブラナ科における倍数体特異的な自殖性への転換を支える分子機構

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<発表論文>

Takashi Akagi, Katharina Jung, Kanae Masuda, Kentaro K. Shimizu,

Polyploidy before and after domestication of crop species,

Current Opinion in Plant Biology, Volume 69, 102225, 2022

https://doi.org/10.1016/j.pbi.2022.102255

【プレスリリース】植物の精子形成に関わる新規因子を発見(榊原班)

September 16, 2022 11:27 AM

Category:プレスリリース, 論文発表

main:榊原班

計画研究・榊原班の立教大学 養老瑛美子助教・榊原恵子准教授、ならびに金沢大学 西山智明助教らの研究グループは、明治大学 越水静助教・矢野健太郎教授、基礎生物学研究所 南野尚紀特任助教・海老根一生助教・上田貴志教授、理化学研究所 佐藤繭子技師・若崎眞由美テクニカルスタッフ・豊岡公徳上級技師らとの共同研究により、オミクス解析によるスクリーニングから、ゼニゴケにおいて精子形成に関与する新規因子BLD10を発見しました。さらに、BLD10遺伝子の精子形成における機能は、BLD10遺伝子が分子進化した結果、祖先機能に加えて新たに獲得した機能である可能性を示しました。  

本研究では、オミクスデータを活用し、それらを統合解析することで、効果的に目的遺伝子をスクリーニングしました。機能解析については、遺伝子導入系が確立されており、精子を形成するゼニゴケとヒメツリガネゴケを使用すること、および高い観察技術によって可能となりました。特に連続切片自動撮像システムを搭載した電子顕微鏡を用いて連続切片観察を行うことで、基底小体周辺の構造の詳細な解析に成功しました。

 
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図:ゼニゴケ精子の表現型解析
A, ゼニゴケ精子の模式図。 B, 野生株(左)およびbld 10変異体(中央、右)の精子。
青:核(Hoechst33342); スケールバー:10 μm。
  
本研究成果は、英国の国際雑誌「New Phytologist」2022年8月3日付(日本時間8月4日付)に掲載されました(オンライン版は2022年7月16日に先行公開されました)。
 
詳細は、こちらを御覧ください。
 
 
<発表論文>
Koshimizu S, Minamino N, Nishiyama T, Yoro E, Sato M, Wakazaki M, Toyooka K, Ebine K, Sakakibara K, Ueda T, Yano K.
Phylogenetic distribution and expression pattern analyses identified a divergent basal body assembly protein involved in land plant spermatogenesis.
New Phytol. 2022 Jul 16. https://doi.org/10.1111/nph.18385

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