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ミトコンドリアゲノムによる
核遺伝子のエピジェネティック制御機構の解明

福井県立大学 生物資源学部 村井 耕二

 真核生物の細胞内には、核ゲノムに加えてミトコンドリアゲノムが存在する。生物体内で起こる高次元の複雑な生命現象は、核ゲノムとミトコンドリアゲノムの複雑に絡み合う遺伝子産物の組合せによる相互作用「ゲノム・遺伝子相関」を通じて決定されているに違いない。近年、ミトコンドリアから発せられ、核遺伝子の発現に影響を及ぼすシグナルは、ミトコンドリア・レトログレード・シグナル(MRS)と呼ばれ、酵母やほ乳動物では、Ca2+イオンやタンパク質リン酸化酵素が関与することが明らかになってきた。我々は、連続戻し交配によって近縁野生種Aegilops geniculata細胞質(ミトコンドリアゲノム)を導入した細胞質置換コムギ系統が、生育不良などを引き起こすことなく、花成(栄養成長から生殖成長への移行)のみが変化するという現象に着目した。コムギの花成には、AP1/FUL-like MADSボックス転写因子をコードするVRN1遺伝子が中心的な役割を担う(Shimada et al., Plant J. 2009)。我々は、Ae. geniculata細胞質置換系統では、VRN1の発現パターンが変化するために花成が遅延することを見出した。VRN1遺伝子は、その発現をエピジェネティックに抑制されており、低温にあうことによってエピジェネティック状態が変化し、発現レベルが上昇する(春化現象)。本研究では、Ae. geniculata細胞質置換系統において、ミトコンドリア原因遺伝子がVRN1のエピジェネティック発現制御にどのように影響するかを明らかにし、その分子機構に迫る。
 本研究は、ミトコンドリア遺伝子による核遺伝子のエピジェネティック制御機構を解明しようとするもので、「ゲノム・遺伝子相関」に関する全く未知の研究領域である。真核生物の細胞内では、常にミトコンドリアゲノムと核ゲノムのクロストークが行われていると考えられ、本研究と当該領域の研究が有機的に結びつくことにより、ゲノム間のエピジェネティックな相互作用という新たな遺伝学の地平が開かれる。それと同時に、ミトコンドリアゲノムの改変による育種という、全く新しい概念である「ミトコンドリア育種」法の創成にもつながるだろう。

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