東北大学大学院生命科学研究科 植物分子育種分野 渡辺研究室

春を待ち焦がれて ~スプリング・エフェメラルの魅力~

2014年1月13日 (月)

 こんにちは。農学部一年の木幡です。平成二十五年は大学への入学を端緒として大きく環境が変わりましたが、恙無く、得ることも多い良い年でした。今、新春を迎え思うことは、本年もますます成長と進歩を目指して日々無駄なく過ごしてゆきたいということですね。
 
  さて、このたび私が紹介させていただきますのは、魅力的な草花の話題です。スプリング・エフェメラル(Spring ephemeral)という言葉を聞いたことがありますか? これは直訳すれば「春の儚いもの」というニュアンスのものになり、ephemeral自体はギリシャ語の「一日の生命の」を意味する語に由来する英単語です。ちなみにephemeraは昆虫のカゲロウをあらわすそうです。では、スプリング・エフェメラルとは一体何かと申しますと、それは春の短い間にだけ我々に姿を見せる植物を総称したものです。すなわち、春に芽を出し、夏までに休眠を始めてしまう植物を指します(広義には夏以降に地上部があってもこれに含む場合があるようです)。どのようなものがあるのでしょうか?具体的な植物名を挙げて見てみましょう。

カタクリ.JPG
撮影/木幡/埼玉県にて(H.21/04)

 まずはカタクリ(Erythronium japonicum Decne.)です。東北大の植物園でも多く見られる植物で、デンプン質の多い鱗茎はかつて片栗粉の原料として用いられたようですが、生産性が低く希少種となってしまった今では、そのように用いられることはありませんね。この植物は3~4月ごろ萌芽と同時につぼみをあげ、数日間開花し、受粉後に実をつけ、種子の散布を終えると夏までには休眠してしまいます。薄桃色の花を二枚の葉の間からすっと伸びた茎の先に一輪だけ咲かせる姿は凛としていて美しいものです。 

セツブンソウ.jpg
撮影/木幡/栽培品(H.25/02)
 
 続いてセツブンソウ(Shibateranthis pinnatifida)です。その名の通り節分の時期に萌芽と同時につぼみをあげて花を咲かせる球根植物です。カタクリ同様種子散布を終えると夏までに休眠してしまいます。小さな球根からたくさん茎を上げて咲く姿はとてもかわいらしく、群生地ではしばしばこの花が絨毯のように咲き誇ることもあるようです。
 
 他にも、スプリング・エフェメラルにはフクジュソウ、イチリンソウ、アマナ、ヤマエンゴサクなど、さまざまな種類のものが見られ、一般的には植物体は小さく、明るい色の花を咲かせるかわいらしいものが多くを占めます。一方、すべてがそうというわけではなく... 

ハシリドコロ.JPG
撮影/木幡/栽培品(H.23/04)

 これはハシリドコロ(Scopolia japonica)と言う植物です。 早春に萌芽し、開花後は実をつけて夏ごろまでに休眠を始めます。巨大になり、花の色も赤紫色に近くどこか不気味な雰囲気を与えます。 そして、この植物は猛毒を持っています。こちらはその猛々しい姿が「はかないもの」にそぐわないのか、スプリング・エフェメラルとして紹介されることはほとんどありませんね(^ ^;) 

 これらの植物は、落葉樹林にあって、早春から初夏にかけて樹木の葉がまだ茂らず、日照が林床に届く短い期間に開花から種子散布までを終わらせることに特化しためにこうした生育サイクルを持っているのです。しかし、このスプリング・エフェメラルの草花たちは夏以降に地上部がないからと言ってその間に何もしないわけではありません。春の間に光合成によって蓄えた栄養分を用い、新たな球根を形成したり、来年に向けて花芽を形成したりと、地面の中では着々と活動を続けるのです。人の目にもうれしいこの春限定の植物は、ただかわいらしいだけでなく厳しい自然環境の中で生き抜くためのたくましさをしっかりと持っているのですね。
 
 今年も春になれば、林床の花たちは堰を切ったように一斉に咲きだし、雑木林がとてもにぎやかになることでしょう。今から春が待ち遠しい限りですね。街に咲く桜を見上げて春を感じるのも一つの楽しみですが、山に入って少し下を向いて歩けば桜とは違う野趣あふれる春の楽しみを発見できるかもしれませんよ。

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