東北大学大学院生命科学研究科 植物分子育種分野 渡辺研究室

アツモリ計画

2014年8月 1日 (金)

 こんにちは。農学部二年植物系の木幡です。この研究室で学生バイトとしてお世話になって10ヶ月目となりますが、今回、去年より計画していた個人的な実験をさせていただきました。その実験とは「アツモリソウの無菌播種」です。アツモリソウとはどのような植物なのでしょうか。

 アツモリソウはラン科アツモリソウ属に分類される植物で、日本ではいくつかの亜種に分けられますが、ほとんどの種類が冷涼湿潤な気候を好み、低地での栽培は一般的には困難とされています。また、ラン科に共通の性質ですが、種子が発芽する段階に特定の共生菌への寄生が必須で、自生地においてもその発芽率は極めて低く、無菌的に炭水化物を含む培地に播種する以外に一般的な栽培下で実生することはほぼ不可能とされています。このように、もともと繁殖力や環境適応力が強くないうえに、園芸業者による盗掘が相次ぎ、自生地の開発・荒廃も相まって、自生数が極端に減少した結果、ついに日本において特定国内希少動植物種に指定され、販売・譲渡が制限されるに至りました。しかし、このような植物であるからこそ、保護を目的とした培養研究がさかんになされ、今回私が用いた無菌播種・培養のメソッドのようなものが次々と生まれてきました。

macranthum.jpg            アツモリソウ(Cypripedium macranthum var. speciosum)

hotei.jpgホテイアツモリソウ(C. macranthos var. hotei-atsumorianum Sadovsky)。花の形状や草丈が異なるため両者は区別されているが、交配は可能である。

 私がこの植物を知ったのは中学生時代で、もともとラン科の植物に興味があった私にとっては垂涎の品でしたが、許可を得て正規のルートで販売されているものは高価であるためなかなか手を出せずにいました。しかし、高校生になりついにこれら二種を入手することができました。以降、酷暑の埼玉という環境において困難はありましたが、何とか維持してきました。そして、大学生になり基礎ゼミからの縁で、幸運にも生命科学系の研究室という至高の環境を利用させていただけることになり、実生に挑戦してみようと考えた次第であります。

capsule.jpg                  蒴果をメスで切開する様子。

 今回私が用いた方法はアツモリソウ用に確立された方法ではありましたが、対象は生物であるため失敗する可能性も高く、今後どうなるかは現時点では想定できません。これら手探りで植物の栽培法を見出そうとする過程は、私にとっては昨年の基礎ゼミを彷彿としました。失敗か成功か、何を以て成功とするか、現時点では判断できませんが、今後も去年の基礎ゼミからの続きのような感覚で経過観察を続けていきたいと思います。

 最後に、今回私のわがままに付き合ってくださった研究室の皆さんに感謝申し上げます。今後もよろしくお願いいたします。

finish.jpg                  無菌播種を終えた培養瓶
 

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