東北大学大学院生命科学研究科 植物分子育種分野 渡辺研究室

News Release

2009年11月の記事です。

【研究成果】イネ・高温不稔解明のための分子基盤構築(共同研究)

2009年11月12日 (木)

高等植物の生殖形質を遺伝学、分子生物学的に解剖するために、2002年からmicroarrayと生殖器官をステージ別に分けることによって、イネ、ミヤコグサ、シロイヌナズナなど、いくつかの論文を発表してきました。

http://www.ige.tohoku.ac.jp/prg/watanabe/work.html

 ザゼンソウでの試みと同様に、温度とのクロストークについて、新たな研究を展開しました。

http://www.ige.tohoku.ac.jp/prg/watanabe/diary/2009/09/07112214.php

 新しい試みとして、温度ストレスと花粉稔性と言うことで、共同研究を行い、花粉稔性維持、不稔性誘導遺伝子などをマイクロアレイ解析からし、生殖形質との遺伝子機能相関について、考察したものを、国際誌Plant Cell Physiol. (Impact factor 3.5)に発表しました。

 イネは、亜熱帯原産であることから、温度ストレスと言えば、開花期の低温、つまり、冷害が東北、北海道で主に問題となり、この点については、渡辺の研究室でも研究を始めています。しかしながら、近年の地球温暖化の影響とも考えられる「高温不稔」という現象も、西日本、特に、西南暖地で観察され、日中の気温が40oC近くなることも、毎年聞かれるようになってきました。こうした高温ストレスによって、どのような遺伝子発現に影響があり、その結果として雄性不稔が誘発されるかということは、植物と高温ストレスとの相互関係・分子レベルでのクロストークを解明する分子基盤構築ができるとともに、高温不稔を解決し、収量増につなげることができることが期待されます。

 この研究は当分野と同研究科のゲノム継承システム分野、農水省・作物研究所、明治大学との共同研究です。穂孕期~開花期のイネを高温(39oC/30oC)に暴露し、そこから、サンプリングした葯をステージ別に分類し、マイクロアレイ解析を行い、タペート細胞で特異的に発現している遺伝子の多くが抑制されていました。その結果として、花粉の柱頭上への接着、発芽が抑制され、このことが、「高温不稔」を引き起こすものと考察しました(Endo et al. (2009) Plant Cell Physiol. 50: 1911-1922)。同論文は、以下のURLにあるので、参考にして頂きたい。
 http://pcp.oxfordjournals.org/cgi/content/abstract/50/11/1911?etoc
 
 また、生命科学研究科のHPにも関連記事を掲載しているので、ぜひ、ご覧ください。

 http://www.lifesci.tohoku.ac.jp/topics/topics_0911.html

 First authorの遠藤博士は、渡辺が岩手大時代に初めて学位を出した学生さんで、そんな方とこのような形でまた、一緒の仕事ができたことは、うれしい限りです。また、こうした形で、卒業生と研究を一緒にできればと思っています。

 昨今の合い言葉は、「低炭素社会の実現」というのがあるようです。もちろん、技術イノベーションにより、低炭素社会を実現することも可能と思いますが、「植物」には、CO2である二酸化炭素を固定できる能力があります。これを最大限生かす「植物」の能力を分子レベルで理解することは、「低炭素社会実現に不可欠な素材」を研究している、植物科学者の義務であろうと思います。ぜひ、こうした研究を、植物生殖形質研究の新しい方向性として、さらに発展させたいと思うのでした。


わたなべしるす

PS. この論文が掲載されているPlant Cell Physiol.の巻頭には、植物生殖の最近の進歩について、reviewが掲載されています。読みやすく、今年が、Darwin年ということもあり、Darwinが着目した多くの生殖形質にも触れられています。ぜひ、ご覧ください。

http://pcp.oxfordjournals.org/cgi/content/abstract/50/11/1857?etoc
http://pcp.oxfordjournals.org/cgi/reprint/50/11/1857
http://pcp.oxfordjournals.org/content/vol50/issue11/cover.dtl

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