東北大学大学院生命科学研究科 植物分子育種分野 渡辺研究室

News Release

【研究成果】:自家和合性のシロイヌナズナを遺伝子改変で自家不和合性に復帰、世界初、英国・科学雑誌「Nature」電子版に掲載 (4/23一部更新)

2010年4月19日

 渡辺の研究室は、これまで、アブラナ科植物の自家不和合性における分子メカニズムの解明を行ってきました。その過程でいくつかの論文発表を行い、エポックメイキングな発見をしてきました。

http://www.ige.tohoku.ac.jp/prg/watanabe/work.html

 今回は、国内外8つの大学との共同研究を行い、モデル植物のシロイヌナズナは自家和合性ですが、そのシロイヌナズナがもっている遺伝子(SCR/SP11)の一部を改変し、再び、遺伝子導入することで、自家不和合性のシロイヌナズナを作製することに世界で初めて成功しました。このことが、英国・科学雑誌「Nature」電子版(Advance Online Publication, AOP)に、日本時間4月19日午前2時(ロンドン時間の4月18日午後6時)に掲載されました。

 アブラナ科植物には、自家不和合性を持つキャベツ、ハクサイ、ダイコンのような作物もあれば、シロイヌナズナ、ぺんぺん草、タネツケバナのように自家和合性のものもあります。1876年に、ダーウィンは交配相手が少ない条件下では自殖が繁殖に有利な性質となるという仮説を提唱していました。では、どの様な遺伝子が関与して自殖、つまり、自家和合性になったのか、これまで不明でした。

 そこで、日本のわれわれ自家不和合性研究者とスイス・チューリヒ大学清水健太郎准教授のグループが共同研究を開始したわけです。われわれは、自家不和合性、遺伝学、分子生物学が守備範囲で、スイスグループは生態学、分子進化、ゲノミクスという点が得意でした。これらを融合し、シロイヌナズナの様々なecotypeを調査したところ、雌ずい側因子は未だ生きている、つまり、自家不和合性機能を有している系統を見出しました。その系統を詳細に調べたら、花粉側因子のSP11(SCR)は、第2エクソンの中で逆位が生じており、それを元に戻せば、立体構造を維持するのに重要な8つの保存されたシステイン残基も形成されることが分かりました。このことは、シロイヌナズナの自家和合性は花粉側S因子が原因であろうと言うことを推測させ、この復元したSP11(SCR)をこの系統に入れれば、自家不和合性のシロイヌナズナができるのではと、考えました。

arabidopsis-3.jpg 次に、この復元したSP11(SCR)遺伝子をSRKの生きている系統に導入したところ、予想通り、花粉管侵入が抑制され、自家不和合性が観察されました。今まで近縁のArabidopsis lyrata由来のSP11, SRKを導入することで自家不和合性を復元した例はありましたが、今回のように、シロイヌナズナが従来から持つ遺伝子を改変するだけで自家不和合性にさせることに成功したのは、世界で始めてとなります。このことが評価され、英国・科学雑誌「Nature」電子版に掲載されました。

arabidopsis-9.jpg 欧州との共同研究が初めてだっただけでなく、仙台に渡辺研究室を作ってから一緒にやってきた大学院生(五十川祥代修士)、博士研究員(諏訪部圭太博士、現、三重大・准教授)と共著の論文になったことは、この上ないうれしいことでした。

 また、東北大学HPのtop page大学英語HP生命科学研究科HP東北大学「科学者の卵」HPにも関連記事を掲載しているので、ぜひ、ご覧ください。

  今後はこの成果を利用して、ハクサイ、キャベツをベースとしたこれまでの研究に加えて、シロイヌナズナの自家不和合性系統を利用することで、自家不和合性研究をさらに発展させたいとと思うのでした。


わたなべしるす