文部科学省科学研究費補助金「新学術領域研究」
キイロショウジョウバエのBtk29A遺伝子は、非受容体型のチロシンキナーゼをコードしています。これには二つのアイソフォームがあり、そのうちtype 2はヒトのX連鎖無ガンマグロブリン血症原因遺伝子産物であるBTKのオルソローグです。このBtk29A type 2産物を特異的に欠損したBtk29AficP突然変異体は、成虫期の寿命が顕著に短縮する表現型を示します。幼虫の脳及び成虫頭部、それぞれからRNAを抽出し、トランスクリプトーム解析を行ってBtk29AficP突然変異体とその復帰変異体(正常型)との間にどのような転写プロファイルの違いが生じているかを調べました。7004から7979種のRNAを比較した結果、発生ステージや組織が異なれば、Btk29A type 2の欠如によって影響を受ける下流の遺伝子群も著しく異なることがわかりました。すでに得られていたマウスBTKに関するトランスクリプトーム解析の結果との比較から、ショウジョウバエと哺乳類とでは、相同な遺伝子の変異であっても、それによって影響を受ける下流の遺伝子群は著しく異なることがわかりました。この研究により、相同な遺伝子の機能が進化の過程で系統ごとに変遷してゆくようすが明らかとなりました。
エピジェネティクスは、数多くの分野に関連が深く、本新学術領域研究でもその理解の為のキーワードの一つとなっています。
植物の分野でも例外ではなく、この度、金(理化学研究所)、玉田(基礎生物学研究所)、木下(奈良先端大)の本領域の班員らにより、Plant & Cell Physiolosy誌にPlant Epigeneticsの特集号を発刊致しました。
http://pcp.oxfordjournals.org/
Kinoshita, T. and Jacobsen, S. PCP (2012) 53: 763-765
Buzas, D., Tamada, Y. and Kurata, T. PCP (2012) 53: 785-793
Kim, J-M., To TK. and Seki, M. PCP (2012) 53: 794-800
Yun, J-Y., Tamada, Y., Kang, YE. and Amasino, RM. PCP (2012) 53: 834-846
Kim, J-M., To TK., Ishida, J., Matsui, A. Kimura, H. and Seki. M. PCP (2012) 53:843-856
5月号の特集では、植物のエピジェネティックスの最先端研究の総説や原著論文が網羅されています。低分子RNA、ヒストン修飾を介したDNAメチル化の機構、トランスポゾンの活性制御、クロマチン修飾を介した植物の開花制御、環境応答とエピジェネティクス、生殖過程のリプログラミング、ゲノムインプリンティングなどなど、本新学術領域のテーマも数多く含まれます。
左の表紙イラストはコンピュターグラフィクスを用いてシロイヌナズナをクロマチンで描いています。
詳細は是非ご一読下さい。