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研究経過報告|新学術領域|ゲノム・遺伝子相関

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2012年7月の記事を表示しています

チューリッヒ大 清水 健太郎(班友)
自家生殖(自殖)の進化は非常に頻繁に起こった進化現象としてダーウィン以来よく研究されてきた。オス・メスの遺伝的な対立についての理論的進化研究から、オスの自家不和合性遺伝子(自己認識遺伝子)の突然変異が自家生殖の進化をもたらす可能性が高いことが指摘されてきた。なぜなら、メスは子に多くの資源を投資する必要があるため、他家生殖によって近交弱勢のない優秀な子を少数つくることが有利であるのに対して、オスは自家生殖・他家生殖に関わらずより多くの子孫をつくって広まることが有利となるからである。これまで我々の研究室では、本新学術に関わる多くの研究室との共同研究により、2倍体のモデル生物シロイヌナズナArabidopsis thalianaを用いて、S-遺伝子座のオス側の自家不和合性遺伝子SP11/SCRの変異が自家和合性をもたらしたことを示してきた。
自家生殖は倍数体種にとくによくみられることが長年指摘されてきた。倍数体化とは、2つのゲノムが融合することによる種分化の主要なメカニズムだが、これまで倍数体種のゲノム・遺伝子相関の研究は難しかった。今回我々は、日本を中心に分布するシロイヌナズナ属の異質倍数体種ミヤマハタザオArabidopsis kamchatica (Fisch. ex. DC.) K. Shimizu & Kudohを倍数体のモデル生物として解析した。両親種は自家不和合性によって他家生殖するのに対して、ミヤマハタザオは自家和合性で主に自家生殖する。ミヤマハタザオが両親種から受け継いだ2つのS-遺伝子座の自家不和合性遺伝子を区別して単離・解析したところ、その両者ともオスの自家不和合性機能が失われていることを発見した。さらに文献調査と統計的検定により、自然選択の働く野生種ではオス機能が失われる傾向にある一方で、人為選択によって自家和合性そのものが選択されたと考えられる栽培種では自家不和合性メス遺伝子SRKの変異が見られるという、多くの種にまたがる一般的な進化パターンを発見することができた。また、ミヤマハタザオの自家和合性の進化は54万年前よりも最近に起こったことを解明し、地球が氷期・間氷期サイクルの環境激変期に入ってから多くの種が自家和合性になったというパターンも論じた。
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【アウトリーチ活動】奈良学園高等学校でのSS出前講義

大阪教育大学の鈴木です。
SSHに関連して、7月25日(水)に奈良学園高等学校にて出前講義を行いました。奈良学園の先生方には大変お世話になり、ありがとうございました。

タイトルは「菜の花の花粉と雌しべが出会うとき −細胞レベルの 自己・非自己認識反応−」で、アブラナ科植物の自家不和合性の分子メカニズムについて説明しました。高校1・2年生が中心でしたので、基礎的な内容から話しましたが、生徒の皆さんから鋭い質問があり、感心しました。高山領域代表の成果である「自家不和合性の優劣性のsmall RNAを介した制御」については、「対立遺伝子間で何がどのように違うのか」や「共優性の意味」などに関する質問に対してお答えしました。

最後にゲノム遺伝子相関のホームページについても宣伝しましたが、少しでもこの領域に興味を持って貰えれば幸いです。

鈴木 剛

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総説がThyroid Hormoneに掲載されました

ホルモンは、環境刺激に応答して体内の生理機能を調節します。したがって、異なる環境に生育する生物にとっては異なったホルモン調節機構が有利であることから、集団間でホルモン調節機構の分化が起こると考えられます。我々は、以前にトゲウオの甲状腺ホルモンについて、そのような例を見つけました(下図)。今回の石川麻乃研究員と執筆した総説では、ヒトも含めた生物で甲状腺ホルモンシグナルの変異がどの程度存在するのか、どういった環境への適応と考えられるのか、どういった遺伝基盤によるのか、についてこれまでに知られていることを整理しました。その結果、以下のようにヒトと動物で4つの共通点を見いだしました。

(1)ヨード不足によって起こるゴイターの起こりやすさに遺伝的変異があり、生育環境のヨード量と関連があるかもしれない。
(2)緯度間変異や人種間変異の原因の一部は、環境の温度に対する適応におそらく由来する。
(3)甲状腺ホルモンの変異と寿命に相関があるかもしれない。
(4)ゲノムスキャンの結果、甲状腺関連遺伝子が選択の標的になることが多々見つかる。

我々のグループでは、トゲウオを中心に環境適応の結果としてどのようにゲノムの分化が起こるかを研究していますが、ヒトとの共通点も見られたことからヒト遺伝学や医学など多様な分野の情報を融合して行くことで新しい研究の発展が見込まれると期待されました。オープンブックのチャプターですので、気軽に一読頂き、領域内外の多くの方々と有意義な議論へ発展していければ幸いです。

Ishikawa, A., and Kitano, J. (2012). Ecological genetics of thyroid hormone physiology in humans and animals. In: Thyroid Hormones  (N. K. Agrawal Ed.) p.37-50, InTech

http://www.intechopen.com/books/thyroid-hormone/ecological-genetics-of-variation-in-thyroid-hormone-physiology

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DNAのメチル化は遺伝子発現制御のほか、バクテリアにおいては鞭毛のスイッチング、ゲノム複製制御にも関わるなど、その重要性が広く研究されている。こうしたDNAメチル化を起こす修飾酵素を多く持つ菌としてピロリ菌が挙げられる。ピロリ菌はヒトの胃に生息するバクテリアで、胃癌等の胃の疾病の原因とされている菌である。ピロリ菌は修飾酵素を30以上保有しており、その生物学的意義が問われていた。多数の株のゲノム配列を比較した結果、4つのIII型修飾酵素について、認識配列を決定する配列認識ドメインが多様であることに加え、配列認識ドメインが異なるオルソログ同士で共有されていることが見出された。修飾酵素には、異なるオルソログ同士間でもごく短いモチーフ配列が配列認識ドメインの両脇に存在し、この配列を足場とした組換えによってドメインが移動したと考えられる。配列認識ドメインと類似の配列を検索すると、ピロリ菌以外の種でも散見され、種内だけでなく、種間でもドメイン配列をやり取りすることで、修飾酵素の認識配列を多様化し、ピロリ菌ゲノム中のDNAメチル化部位を多様化していると考えられる。

Yoshikazu Furuta, Ichizo Kobayashi. Movement of DNA sequence recognition domains between non-orthologous proteins. Nucleic Acids Res., published online.


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【アウトリーチ活動】4月期から6月期(第1四半期)までの出前講義実績概略(7/4)

 科学研究費の申請書にも近年、実施が義務づけられている「国民との科学・技術対話」の推進。鈴木班でも、小中高への出前講義を通したアウトリーチ活動を広く展開し、国民へ科学・技術を還元します。

 前々回が1月末まで、前回が昨年度のまとめでしたので、新年度4月から6月の第1四半期における研究分担者・渡辺のアウトリーチ活動をまとめておきます。詳しい内容は、研究室のHPに記してありますので、興味のある方は、ぜひ、以下のlinkをご覧ください。講義内容は、今回は小学校、高校、高校の先生方向けで、内容は植物の生殖に関わる講義、実験などです。


 石川県立小松高等学校・特別講義・実験指導・文章表現指導(1, 2, 3, 4)
 小松市立中海小学校・特別講義(1, 2)
 福島県立磐城高等学校・特別講義・研究室訪問(1, 2)
 和歌山市立名草小学校・特別講義
 宮城県仙台第一高等学校・特別講義・研究室訪問(1, 2, 3)
 石川県高等学校教育研究会生物部会研修会・特別講演
 岩手県立釜石高等学校・文章表現指導
 宮城県宮城第一高等学校・特別講義
 仙台市立木町通小学校・特別講義
 宮城県古川黎明高等学校・特別講義
 仙台市立七北田小学校・特別講義
 松山市立小野小学校・特別講義
 愛媛県立松山南高等学校・特別講義
 愛媛県立今治南高等学校・特別講義・実習
 今治市立日高小学校・特別講義
 香川県立観音寺第一高等学校・特別講義
 埼玉県立浦和第一女子高等学校・実験実習


 引き続き、社会貢献ができる領域であるように努力したいと思います。

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 わたなべしるす


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