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研究経過報告|新学術領域|ゲノム・遺伝子相関

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2014年4月の記事を表示しています

近縁種の2つのゲノムが1つの細胞内に共存する状況は、雑種形成、受精後生殖隔離、そして異質倍数体種分化でのゲノム相関を理解するための鍵である。しかし、これまで近縁種間でのゲノム配列の高い相同性のために、配列を区別して解析することが困難であった。我々は東工大情報系の瀬々研究室との共同研究により、次世代シークエンサーを用いて雑種・異質倍数体の遺伝子配列・ゲノムを解析するためのバイオインフォーマティックワークフローHomeoRoqを開発した。

とくに、2つの異なる種が交雑し,かつ倍数化を起こした異質倍数体種の解析にこの手法は有用である.通常の種間雑種は親の染色体を1本ずつ(1セット)持っているが,異質倍数体は四倍体では2本ずつ(2セット),もしくはそれ以上を持つのが特徴である.このように染色体のセット数が増えるという現象は,生物全般に普遍的に見られるもので,特に植物では頻繁に起こることが知られる.現存する全ての被子植物種の歴史上にこのような倍数化が複数回起こり,それが植物の遺伝的・形態的多様性を高めるのに役立ったというのは,これまでの進化ゲノム学的な知見でも明らかにされている.

比較的最近に起きた異質倍数化では,その両親種と異質倍数体種の両方が現存することが多い.場合によっては両親種の好む環境が明確に異なっていることも多い.このような場合に,これらの種の好む生育環境または地図上の分布域を比較してみると,異質倍数体種は,両親種の中間的な環境,または両者を包合する分布,つまり親種よりも広い分布をとる傾向がある.ミヤマハタザオArabidopsis kamchaticaは、比較的高温の環境に生育するハクサンハタザオA. halleriと低温環境に生息するのセイヨウミヤマハタザオA. lyrataを両親とする異質倍数体であり、広い緯度の海岸から高山まで多様な環境に生育している。異質倍数体はどのようにして,そのような親種とは異なる環境への耐性,またはより広い分布を手に入れたのだろうか?

この問いに答えるためには,異質倍数体のゲノムワイドな遺伝子発現解析が必須であった.異質倍数体は同じ1つの遺伝子を2種類ずつ(それぞれの親から一種類ずつ)受け継いでいる.これらの由来親の異なる2種類の遺伝子は,ホメオログ遺伝子と呼ばれる.つまり,異質倍数体は両親種よりも発現させる遺伝子の数,または遺伝子の組み合わせの選択肢が多い.このように,遺伝子の発現制御が異質倍数化によって変化し,それが両親種とは異なる環境耐性を手に入れる鍵となった可能性が高いと考えられる.しかし,どちらのホメオログ遺伝子がどれだけ発現しているのかを知るためには,従来の解析方法では不十分であった.ホメオログ遺伝子間の違いはごくわずかなので,そのわずかな違いを手がかりに由来親を特定する方法が確立していなかったためである.

まず我々は,親種のゲノムアセンブリを行い,それぞれのホメオログの配列情報を得ることから開始した.また,両者のクオリティの違いによるカウントバイアスを避けるために,同じRNA-seqリードを別々にそれぞれのゲノムにマッピングして片方にしかマップされない物は除外し,ミスマッチ数の少ない方を正しい由来親と認定するという方式をとるなどの工夫を凝らした.その結果,人工的に作成した異質四倍体Arabidopsis kamchaticaRNA-Seqでは,88%以上という高い確率でリードの由来親を特定できるようになった.さらに、PyroMarkを用いてホメオログの発現比率を実験的に測定したところ、HomeoRoqの結果とよく一致した。また,従来の論文では,限られた遺伝子数の発現比較から,異質倍数化後にはストカスティックに大規模な遺伝子発現変化が起こると報告されていたが,ラボ環境で育てたこの人工四倍体では,従来いわれていたほど大規模な不規則な変化は起こっていないことが確認された.

さらに、統計的な過分散をとりいれて、環境変化によってホメオログ間の比率が有意に変化した遺伝子を探索する手法を開発した。人工倍数体を低温ストレスにさらしたところ、ゲノムの約1%の遺伝子でホメオログ間の比率が処理前後で有意に変化しており、RD29B, COR15などシロイヌナズナでよく研究されている低温マーカー遺伝子が含まれていた。この結果は、異質倍数体が、それぞれの親に固有のストレス応答シス配列を受け継ぎ、広い環境耐性を得たことを示唆する。

このパイプラインは,今後,動物・植物・菌類の雑種・異質倍数体の発現解析のみならず、倍数体ゲノム配列解析に適用可能である。さらに、実際の野外の植物個体がどのように親のゲノムを使い分けて環境適応しているのかを調べるための有力なツールとなる.


Genome-wide quantification of homeolog expression ratio revealed nonstochastic gene regulation in synthetic allopolyploid Arabidopsis

Satoru Akama*, Rie Shimizu-Inatsugi*, Kentaro K. Shimizu**, and Jun Sese** (* equally contributed, ** corresponding authors)

Nucleic Acids Research 42: e46 (2014), doi:10.1093/nar/gkt1376

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公開セミナー:集団ゲノム学

集団ゲノム科学 Population genomics の最先端を切り開いているDaniel Falush博士に、以下のように細菌ゲノムについて公開セミナーをして頂きます。皆様にも、是非ご来聴いただきたく、ご案内申し上げます。お近くの方々にもご連絡頂ければ幸いです。博士は、5月初めから7月末まで、東京大学特任教授として在職します。

日時:平成 26 年5月2 日(金)16:30 - 18:00    16:30 - 18:00, May 2nd (Fri), 2014  場所:東京大学柏キャンパス 生命棟セミナー室3【遠隔配信】    University of Tokyo Kashiwa Campus (Seminar Room 3, Biosciences Building)【Remote lecture】    東京大学 医科学研究所(地下鉄南北線、白金台駅)、2号館2階小講義室    Institute of Medical Science, University of Tokyo (Smaller Lecture Room, Second Floor, Building 2) (by Shirokanedai station, Tokyo Metro) アクセス:http://www.ims.u-tokyo.ac.jp/imsut/jp/access/access/ キャンパスマップ:http://www.ims.u-tokyo.ac.jp/imsut/jp/access/campus/ 講師:ダニエル・ファルシュ Daniel Falush, Ph.D.  マックス・プランク進化人類学研究所・シニアサイエンティスト、新領域創成 科学研究科・外国人特任教授 Senior Scientist, Max Planck Institute of Evolutionary Anthropology / Project Professor, GSFS 演題:Evolutionary genomics of rapidly recombining bacteria. 高速組換え細菌の進化ゲノム学 概要:  I will describe recent work on how campylobacter has evolved in response to the challenges of the agricultural environment. I will then describe the very different setting of ocean bacteria Vibrio parahaemolyticus that live in the ocean but also colonize animal hosts. 農業環境の変化に応じて、カンピロバクターがどう進化してきたかについて、最近の 成果を紹介する。次に、大洋に生存しながら動物にも住み着ける海洋細菌である腸炎 ビブリオの全く異なる状況について述べる。
世話人:小林一三 (75326, ikobaya@ims.u-tokyo.ac.jp)

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研究成果がPLoS Geneticsに掲載されました

異なる生物集団の間では、交配しても子が生まれない、生まれても生存できない、交配自体を行わないといったことがありえます。たとえば、祖先が共通であっても「長い間、地理的に隔てられる」といった要因によって、子孫を残せなくなることが知られています。このような現象は「生殖隔離」とよばれ、動物や植物で広くみられます。生殖隔離は、新たな種を作り出すためにきわめて重要です。生殖隔離がなければ、一度分離した集団でも再び交配することで遺伝子が混ざり合い、種として成り立たないことになってしまいます。古くより、生殖隔離がおきるメカニズムとして、「ドブジャンスキー・ミュラー (Dobzhansky-Muller) モデル」が提唱されてきました。このモデルでは「分離した集団において、互いに作用する複数の遺伝子が独立に進化した後に交配すると、生まれた子(雑種個体)で、遺伝子の働きに不適合が生じるため」と説明されており、実際に、X 染色体上の遺伝子が不適合をおこしやすいことが知られています。ただし、その具体的な分子メカニズムについては、ほとんどわかっていませんでした。


今回、50100 万年前に共通祖先から分かれた2 亜種のマウスを対象にした実験を行うことで、謎だった分子メカニズムの解明に向けて一歩前進することが出来ました。生殖能力の低下が観察されるX 染色体のみが別亜種から由来する雄のマウスの全ゲノムについて遺伝子の発現解析を行い、X 染色体上の遺伝子に発現異常が生じていることを突き止めました。この発現異常は、転写調節機構における、転写調節因子などのトランス因子とシス調節領域の亜種間多型が原因であると考えられました。興味深いことに、X染色体上の発現低下していた遺伝子の多くが生殖関連遺伝子であり、トランス因子とシス調節領域の間に起きた遺伝的不適合genetic incompatibilityが原因であることが示されました。このことは、生殖関連遺伝子で、転写調節機構におけるシス・トランス因子がそれぞれの亜種の中で速いスピードで共進化した結果と考えられます。トランス因子とシス調節領域の間の遺伝的不適合は、雑種の細胞環境において普遍的におこっている可能性があり、生殖隔離に伴う様々な表現型を説明できるかもしれません。

 

この成果は、新領域融合研究センター、国立遺伝学研究所の哺乳動物遺伝研究室、国立統計数理研究所との共同研究によるものです。

 

Ayako Oka, Toyoyuki Takada, Hironori Fujisawa, Toshihiko Shiroishi

Evolutionarily Diverged Regulation of X-chromosomal Genes as a Primal Event in Mouse Reproductive Isolation. 

PLoS Genetics e1004301

[Open Access]

 

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rRNAとmRNAの 色素体での共進化

タンパク質の合成(翻訳)は、メッセンジャーRNA(mRNA)のリボソームによる認識によっておこります。原核生物では、mRNA5'の非翻訳領域にあるシグナル配列(SD配列)が、リボソームの小サブユニットのRNA3'端(アンチSD配列、コアモチーフ3'CCUCC) と相補的な塩基対を作る、SDShine-Dalgarno)相互作用が起きます。

 

私たちは、藍藻(シアノバクテリア)由来の内部共生体が葉緑体などの色素体に進化する過程で、この相互作用がどうなったかを調べました。SD相互作用の消失が、緑藻 、ユーグレナ藻、アピコンプレックス門の色素体で、並行して起きていました。それらの色素体ゲノムの著しい縮小と関係するのでしょう。

 

古典的な SD 相互作用 (3CCUCC/5GGAGG (rRNA/mRNA)) 変則的な SD 相互作用 (3CCCU/5GGGA あるいは 3CUUCC/5GAAGG) にとりかわっている場合が、緑藻とユーグレナ藻で、発見されました。それは、rRNA 側のモチーフ配列と mRNA側のシグナル配列の双方の、足並みを揃えた変化によって起きていました(図:ユーグレナ藻)。


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rRNAmRNAのこのような共進化は、 遺伝情報発現のしくみの予想外な進化的可塑性を示しています。

 

Kyungtaek Lim, Ichizo Kobayashi, and Kenta Nakai. Alterations in rRNA-mRNA interaction during plastid evolution. Molecular Biology and Evolution. (2014) doi: 10.1093/molbev/msu120 [Journal]

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研究成果がGGS(Genes Genet. Syst.)に掲載されました。

研究成果がGGS(Genes Genet. Syst.)に掲載されました。 生殖は雌雄の異なるゲノムが相互作用するモデル的な系といえます。そのために植物の場合、雄性配偶子を有している花粉が発芽し、花粉管伸長が重要となります。今回は、花粉管伸長に機能しているだろうことは想定されていた、アクチンフィラメント(AF)とアクチン結合タンパク質(ABP)について、ABPの中でも注目度が低かったLIMタンパク質の機能を花粉管伸長で機能解析をしました。シロイヌナズナゲノムには、PLIM2の遺伝子が3つに重複しており、その中でも、生殖器官で特異的に発現が観察されたAtPLIM2a, AtPLIM2cの機能抑制系統を作出したところ、抑制系統では、花粉管伸長速度が57%に低下していました。この結果として、鞘基部の結実率が野生型に比べて低下するという現象を見いだしました。

 また、本稿はその成果が評価されGGS 5号の表紙に選ばれました。Open accessですので、ぜひ、ご一覧頂ければ、幸いです。

DSCN1829.JPGDemonstration in vivo of the role of Arabidopsis PLIM2 actin-binding proteins during pollination

Sudo, K., Park, J.-I., Sakzono, S., Masuko-Suzuki, H., Osaka, M., Kawagishi, M., Fujita, K., Fujita, K., Maruoka, M., Nanjo, H., Suzuki, G., Suwabe, K., and Watanabe, M.

Genes Genet. Syst. (2013) 88: 279-287 .

(URL: https://www.jstage.jst.go.jp/article/ggs/88/5/88_279/_article)


わたなべしるす

PS. 渡辺の研究室HPに関連記事があります。あわせてご覧ください。


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