文部科学省科学研究費補助金「新学術領域研究」
研究成果
山元班の濱田(川口)典子らは、ショウジョウバエの卵巣で二次生殖幹細胞の増殖をオン‐オフするニッチで働くスイッチ機構を解明し、2014年1月17日付のScienceに発表しました。
ショウジョウバエの卵巣小管の基部には体細胞で構成されるニッチに囲まれて生殖幹細胞が存在し、分裂のたびに自身と同じ生殖幹細胞と、のちに分化経路に入るべく運命づけされた二次生殖幹細胞=シストブラストの二つの細胞を生み出してゆきます。シストブラストはその後4回の分裂によって16個の生殖細胞を作り、うち1個だけが卵細胞へと分化して、残りは哺育細胞となります。濱田らは、Btk29AというTECファミリーの非受容体型チロシンキナーゼの機能喪失型変異体では、シストブラストが分化に向かわず増殖し続ける結果、卵巣に腫瘍が生じることを見出しました。詳細な解析の結果、正常型Btk29Aはシストブラストそのものの中で働くのではなく、ニッチを構成する体細胞で機能し、b-cateninのチロシンリン酸化を介してpiwiの転写をup-regulateする結果、シストブラストの増殖をニッチ側で抑制していることが判明したのです。チロシンリン酸化されたb-cateninがpiwiの転写を直接活性化するのか否か、ニッチから出されるシストブラスト増殖停止シグナルの実体は何か、などは今後の課題として残されています。
本研究は、幹細胞に"外"から働きかけて増殖を止めさせる仕組みの実像に迫る大きな一歩であり、幹細胞制御に新たな突破口を提供する画期的成果です。
出典:Hamada-Kawaguchi, N., Nore, B., Kuwada, Y., Smith, C. I. E. and
Yamamoto, D. (2014) Btk29A promotes Wnt4 signaling in the niche to terminate
germ cell proliferation in Drosophila.
Science 343, 294-297.
http://www.sciencemag.org/content/343/6168/294.long#corresp-1
図
Wnt4機能低下型突然変異体の卵巣小管基部のニッチ[濱田(川口)原図]
アウトリーチ活動
リクルートの運営する無料ウェブマガジン「ゼクシイ」で、山元が男女の相性と遺伝子型(HLA)が関係するという実験について話題提供をしました。
出典:
http://zexy.net/contents/lovenews/article.php?d=20131022
図:山元の話を載せた「ゼクシイ」の1ページ
研究成果をThe Plant Journal 12月号に出版しました(Sekine D., et al. Plant J. 2013)。
多くの被子植物では、異なる種や異なる倍数性種を用いて掛け合わせをした場合(それぞれ種間交雑と倍数体間交雑と呼びます)、胚乳の発生異常が原因で生殖隔離がおこることが知られています。両者はともに、父由来と母由来のゲノムの機能の一般性が導き出されるほど、胚乳でおこる発生の亢進や抑制の表現型が似通っているため、両者の違いはこれまでの研究でははっきりしませんでした。しかしながら、種間交雑では「異なるゲノム配列の出会い」、倍数体間交雑では「異なるゲノム量の出会い」と表現することが可能で、それぞれの生殖隔離の分子機構は異なると考えられます。 発表した論文では、2倍体イネと4倍体イネを用いた倍数体間交雑を行い、交雑種子の胚乳発生を解析し、先行研究で行われた種間交雑の結果 (Ishikawa & Ohnishi et al., 2011, The Plant Journal)との比較を行いました。受粉後7日目の発生段階において、2倍体の自殖種子と比較すると、母親4倍体-父親2倍体の組み合わせでは胚乳の著しい萎縮が観察されました(挿絵右側写真)。一方で、母親2倍体-父親4倍体の場合は、肥大した子房と透明な液体上の胚乳が観察されました(挿絵右側写真)。そこで、倍数体間交雑での胚乳発生を詳細に解析し、母親4倍体-父親2倍体の組み合わせでは、多核体期から細胞化を経て細胞分裂期への発生進行が早まると共に胚乳核数の減少が見られることを明らかにしました(挿絵)。一方で、母親2倍体-父親4倍体の組み合わせでは、発生進行が著しく遅れると共に早いステージでの胚乳核数の増大が見られました。イネの種間交雑においては、同じように、組み合わせに応じて発生の進行が、著しく早まったり遅れたりすることが観察されています。しかしながら、種間交雑では、胚乳核の分裂頻度は組み合わせが変わっても差がないことが判っています(Ishikawa & Ohnishi et al., 2011)。したがって、本研究では、倍数体間と種間交雑の違いを理解することに成功しました。これらの研究成果が、今後の展開を通じて、ゲノム遺伝子相関の共通原理を理解する一助になることを期待しています。