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研究成果がPLoS Geneticsに掲載されました

異なる生物集団の間では、交配しても子が生まれない、生まれても生存できない、交配自体を行わないといったことがありえます。たとえば、祖先が共通であっても「長い間、地理的に隔てられる」といった要因によって、子孫を残せなくなることが知られています。このような現象は「生殖隔離」とよばれ、動物や植物で広くみられます。生殖隔離は、新たな種を作り出すためにきわめて重要です。生殖隔離がなければ、一度分離した集団でも再び交配することで遺伝子が混ざり合い、種として成り立たないことになってしまいます。古くより、生殖隔離がおきるメカニズムとして、「ドブジャンスキー・ミュラー (Dobzhansky-Muller) モデル」が提唱されてきました。このモデルでは「分離した集団において、互いに作用する複数の遺伝子が独立に進化した後に交配すると、生まれた子(雑種個体)で、遺伝子の働きに不適合が生じるため」と説明されており、実際に、X 染色体上の遺伝子が不適合をおこしやすいことが知られています。ただし、その具体的な分子メカニズムについては、ほとんどわかっていませんでした。


今回、50100 万年前に共通祖先から分かれた2 亜種のマウスを対象にした実験を行うことで、謎だった分子メカニズムの解明に向けて一歩前進することが出来ました。生殖能力の低下が観察されるX 染色体のみが別亜種から由来する雄のマウスの全ゲノムについて遺伝子の発現解析を行い、X 染色体上の遺伝子に発現異常が生じていることを突き止めました。この発現異常は、転写調節機構における、転写調節因子などのトランス因子とシス調節領域の亜種間多型が原因であると考えられました。興味深いことに、X染色体上の発現低下していた遺伝子の多くが生殖関連遺伝子であり、トランス因子とシス調節領域の間に起きた遺伝的不適合genetic incompatibilityが原因であることが示されました。このことは、生殖関連遺伝子で、転写調節機構におけるシス・トランス因子がそれぞれの亜種の中で速いスピードで共進化した結果と考えられます。トランス因子とシス調節領域の間の遺伝的不適合は、雑種の細胞環境において普遍的におこっている可能性があり、生殖隔離に伴う様々な表現型を説明できるかもしれません。

 

この成果は、新領域融合研究センター、国立遺伝学研究所の哺乳動物遺伝研究室、国立統計数理研究所との共同研究によるものです。

 

Ayako Oka, Toyoyuki Takada, Hironori Fujisawa, Toshihiko Shiroishi

Evolutionarily Diverged Regulation of X-chromosomal Genes as a Primal Event in Mouse Reproductive Isolation. 

PLoS Genetics e1004301

[Open Access]

 

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