HOME > 研究経過報告 > 熱帯雨林での一斉開花現象について、網羅的な発現解析を行った論文がMolecular Ecology誌に掲載されました

研究経過報告|新学術領域|ゲノム・遺伝子相関

「研究経過報告」内を検索

熱帯雨林での一斉開花現象について、網羅的な発現解析を行った論文がMolecular Ecology誌に掲載されました

 東南アジア熱帯雨林では、フタバガキ科などの数百種もの樹木が、数年に一度、不規則な間隔で一斉に同調して開花します(写真)。しかしながら、なぜこのような大規模な開花が誘導されるのか、その仕組みについては長らく謎とされてきました。そのため一斉開花は、熱帯生物学で最も壮大でミステリアスな現象と言われ、世界中の研究者の注目を集めてきました。開花誘導の仕組みについては、乾燥、低温、日照といった環境要因に加え、栄養蓄積量などの内部要因が開花を引き起こすとの説がこれまでに提唱され、長く論争が続いてきました。今回我々は、2009年にボルネオ島ランビル国立公園で起きた一斉開花の際に、フタバガキ科樹木Shorea beccariana(写真)の網羅的発現解析を行い、遺伝子発現の観点からこれらの仮説の検証を行いました。
 
 50mにもなる高木からのサンプル採集は、国立環境研究所の竹内やよい博士、筑波大学の田中健太博士らとの共同研究により、日本の研究グループによって設置された高さ80mを越えるクレーン(写真)を用いることで可能になりました。非モデル生物であるShorea beccarianaの発現解析にはRoche 454 次世代シークエンサーを用い、一斉開花をはさむ4時点のサンプル間で1128遺伝子の発現が変わっていることを確認しました。花芽形成に関わる遺伝子に注目すると、その翻訳産物が花芽形成を誘導する植物ホルモン「フロリゲン」であるFT (FLOWERING LOCUS T)遺伝子のホモログの発現が、一斉開花の約3週間前の雨量が非常に少なくなる時期を境に上昇していることがわかりました。またFT遺伝子を直接抑制し、花芽形成を抑えるMADSボックス遺伝子SVP (SHORT VEGETATIVE PHASE)のホモログの発現が同様に雨量の少なくなる時期を境に低下していました。これらの遺伝子をシロイヌナズナで強制発現したところ、それぞれ花芽形成時期を促進させる、あるいは遅延させるといった表現型を引き起こしたことから、花芽形成に関わる機能を保存しているものと考えられます。さらに、1128遺伝子をシロイヌナズナの発現データベースと比較したところ、長期の乾燥で発現変化する遺伝子の多くが、この雨量の少なくなる時期に発現変化していることがわかりました。これらの結果は、植物が実際に乾燥を感じ、その後、花芽形成に関わる遺伝子の発現が変化を始めることを示唆しており、「乾燥が一斉開花を誘導する」という仮説を支持します。東南アジア熱帯雨林では、地球環境変動の結果、より頻繁に雨量の少ない時期が生じることが予想されています。このことは、一斉開花の規模、頻度を変化させる可能性があり、今後注意深い観察が必要になってくると考えられます。これまで、一斉開花時期の予測の難しさから、たくさんの種子を計画的に得ることができず、このことが熱帯雨林再生の一つの障害となっていました。しかしながら、本研究を応用し、発現解析によって開花、種子形成時期の予測ができるようになると、これらの保全の問題の解決にも貢献できる可能性があると期待しています。

Kobayashi, M.J., Takeuchi, Y., Kenta, T., Kume, T., Diway, B., Shimizu, K.K. (2013) Mass flowering of the tropical tree Shorea beccariana was preceded by expression changes in flowering and drought-responsive genes.
Molecular Ecology, Early View
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/mec.12344/full

Shorea_beccariana.jpeg

canopy_during_general_flowering.jpeg

CraneBorneo.jpeg


(班友 チューリッヒ大学 清水健太郎)

ページトップへ|新学術領域|ゲノム・遺伝子相関