文部科学省科学研究費補助金「新学術領域研究」
私たちは、先行研究において、アヒルとバリケンのF1雑種(ドバン)不妊の原因が、染色体の不適合性によって引き起こされる相同染色体の対合阻害による減数分裂の停止である可能性を示しました。本研究では、カモ科に属するアヒル(Anas platyrhynchos)、バリケン(Cairina moschata)、ガチョウ(Anser cygnoides)を対象に、遺伝子マッピングによってマクロ染色体の染色体地図を作製し、これら3種の染色体構造の違いを調べるとともに、それらをニワトリの染色体地図と比較することによって、カモ目-キジ目間に生じた染色体構造変化について推定しました。その結果、アヒル-バリケン間では1番染色体とZ染色体で形態に違いが見られたものの、遺伝子オーダーに違いはなく、両者間の染色体構造の違いは非常に小さいものであることを明らかにしました。これらの結果は、アヒルとバリケンのF1雑種の不妊を引き起こす要因は、染色体の不和合性だけではなく遺伝的な要因も関与している可能性を示しています。一方、アヒル・バリケン-ガチョウ間では4番染色体とZ染色体において挟動原体逆位が検出されました。また、カモ目3種とニワトリの間では、2番染色体で挟動原体逆位、Z染色体で動原体の移動が検出されましたが、その他に大きな構造変化はありませんでした。これらの結果は、カモ目及びキジ目の染色体構造は非常に保存的であることを示しています。
メダカ属(Oryzias)の核型は、染色体の形態によって、単腕型、融合型、両腕型の3タイプに分かれ、それぞれの核型を持つメダカ群は分子系統学的にも同じグループを構成し、染色体構造の変化と遺伝的な分化に強い相関が見られます。両腕型のニホンメダカ(O. latipes)と単腕型のハブスメダカ(O. hubbsi)のF1雑種胚では、染色体の不分離によってハブスメダカの染色体が一方的に減少し致死となることが知られています。このような雑種胚の発生異常を引き起こす染色体の不分離の要因の一つとして、動原体ヘテロクロマチンの分化とその不適合性が考えられます。本研究では、単腕型の染色体構成を持つハブスメダカと融合型の染色体構成を持つセレベスメダカ(O. celebensis)から動原体ヘテロクロマチンを構成する反復配列をクローニングし、それらの塩基配列、染色体分布、ならびに種間の保存性について調べました。その結果、ハブスメダカから単離されたOHU-RsaI-Scen配列はすべての染色体の動原体に大量に存在し、セレベスメダカの2つの配列OCE-AluI-ScenとOCE-HinfI-Scen5もほとんどの染色体の動原体部位に存在しました。しかし、これら3種の反復配列の塩基配列やGC含量には相同性はなく、また高い種特異性が見られたことから、それらの起源は互いに異なりそれぞれ独自の分子進化を経てきたことが明らかになりました。現在は、両腕型の核型を持つメダカからも同様に動原体反復配列を単離し、それらの特徴を調べることによって、3種のメダカグループにおける動原体反復配列の進化過程と核型進化との関係について解析を進めています。