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雄はなぜ存続できるのか? ダーウィン以来、稀とされてきた雄と両性の共存をシロイヌナズナ近縁種で発見 チューリッヒ大 清水健太郎(班友)

動植物の有性生殖システムは多様性に富んでおり、雌雄同体(多くの被子植物やカタツムリなど)から雌雄異体(ヒトやアスパラガスなど)が何度も進化したと考えられている。その進化の中間段階として、両性個体と雌(雄性不稔)が共存する雌性両全性異株gynodioecyが考えられている(ハマダイコンなど)。一方、その逆に、両性個体と雄(雌性不稔)が共存する雄性両全性異株androdioecyについては、チャールズ・ダーウィンが1877年に調査の限りで存在しないと述べている。ダーウィン以降、動植物それぞれ数例程度(C. elegansなど)が報告されてきていた。雄個体が存在し続けるためには、精子または花粉を通じて2倍以上の子孫を残すという厳しい条件を満たす必要があるというのが、雄性両全性異株が稀であることの理論的背景である。

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我々はシロイヌナズナ近縁種の繁殖システムを研究する中で、スイスなどの川沿いに生育するタネツケバナ属Cardamine amaraが雄性両全性異株を持つことを予想外にも発見した。雄個体では雌しべが未発達で、種子を作れなくなっていた(写真、バックグラウンド:Cardamine amara, 左:両性個体の花、右:雄個体の花)。これまでの理論的・実証的研究では、花ごとの花粉数は雄が2倍以上であることが予想され、また雄の頻度は50%以下であるはずだが、Cardamine amaraどちらも満たしていないように見えた。マイクロサテライトマーカーを用いて個体識別をしたところ、雄個体は種子をつくれないかわりに、無性繁殖によって川の流れに沿って多数のクローンを増やしていることがわかった。つまり、クローンを含めて考えれば雄の花粉数は2倍以上であり、遺伝子頻度で見れば雄は50%以下という条件を満たしていた。シロイヌナズナに近縁であることを活かして、マイクロアレイ解析を行い、雌しべ発生などの遺伝子の発現量が有意に異なることがわかった。今後、雄のゲノム進化のモデル系にしていきたい。


 ナショナルジオグラフィックのインタビューでも紹介されています。 


Tedder, A., Helling, M., Pannell, J.R., Shimizu-Inatsugi, R., Kawagoe, T., van Campen, J., Sese, J., and Shimizu, K.K. (2015) Female sterility is associated with increased clonal propagation in populations of Cardamine amara (Brassicaceae), Annals of Botany, 115: 763-776

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