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ゲノム重複を経た倍数体種のオス・メス自家不和合性遺伝子についての論文がPLoS Genetics誌に掲載されました

チューリッヒ大 清水 健太郎(班友)
自家生殖(自殖)の進化は非常に頻繁に起こった進化現象としてダーウィン以来よく研究されてきた。オス・メスの遺伝的な対立についての理論的進化研究から、オスの自家不和合性遺伝子(自己認識遺伝子)の突然変異が自家生殖の進化をもたらす可能性が高いことが指摘されてきた。なぜなら、メスは子に多くの資源を投資する必要があるため、他家生殖によって近交弱勢のない優秀な子を少数つくることが有利であるのに対して、オスは自家生殖・他家生殖に関わらずより多くの子孫をつくって広まることが有利となるからである。これまで我々の研究室では、本新学術に関わる多くの研究室との共同研究により、2倍体のモデル生物シロイヌナズナArabidopsis thalianaを用いて、S-遺伝子座のオス側の自家不和合性遺伝子SP11/SCRの変異が自家和合性をもたらしたことを示してきた。
自家生殖は倍数体種にとくによくみられることが長年指摘されてきた。倍数体化とは、2つのゲノムが融合することによる種分化の主要なメカニズムだが、これまで倍数体種のゲノム・遺伝子相関の研究は難しかった。今回我々は、日本を中心に分布するシロイヌナズナ属の異質倍数体種ミヤマハタザオArabidopsis kamchatica (Fisch. ex. DC.) K. Shimizu & Kudohを倍数体のモデル生物として解析した。両親種は自家不和合性によって他家生殖するのに対して、ミヤマハタザオは自家和合性で主に自家生殖する。ミヤマハタザオが両親種から受け継いだ2つのS-遺伝子座の自家不和合性遺伝子を区別して単離・解析したところ、その両者ともオスの自家不和合性機能が失われていることを発見した。さらに文献調査と統計的検定により、自然選択の働く野生種ではオス機能が失われる傾向にある一方で、人為選択によって自家和合性そのものが選択されたと考えられる栽培種では自家不和合性メス遺伝子SRKの変異が見られるという、多くの種にまたがる一般的な進化パターンを発見することができた。また、ミヤマハタザオの自家和合性の進化は54万年前よりも最近に起こったことを解明し、地球が氷期・間氷期サイクルの環境激変期に入ってから多くの種が自家和合性になったというパターンも論じた。
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