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研究経過報告|新学術領域|ゲノム・遺伝子相関

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2012年8月の記事を表示しています

生物間相互作用は個々の生物にどのような影響を与え共進化をもたらしているのでしょうか? 病原菌に対する宿主植物の防御メカニズムは、宿主植物と病原菌との相互作用によって変化します。私たちは、いもち病菌から分泌されてイネの細胞に送り込まれる非病原力遺伝子(AVR)タンパク質と、対応するイネの抵抗性遺伝子(R)タンパク質とが、直接的タンパク質相互作用し、アミノ酸変異による両者の結合度の違いが抵抗性の程度を決定していることを明らかにしました。その研究成果はThe Plant Journalに掲載されました。

  抵抗性タンパク質Pik2種のCC-NBS-LRRであるPik1Pik2から構成されます(Ashikawa et al.2008,Genetics 180:2267)が、その一方のPik1が、直接的タンパク質相互作用によっていもち病菌AVR-Pikを認識することが、本研究によって明らかとなりました。さらに、AVR-Pikと結合するPik1のタンパク質領域は、アリル間で変異に富む領域であることも分かりました。また、いもち病菌由来のAVR-Pik及びイネの抵抗性遺伝子Pikには、それぞれ多数のアリルがあり、アミノ酸変異をもたらすDNA変異で異なっています。このAVR-PikPikのアリル間での直接的タンパク質相互作用の結合度の違いが、アリル間の特異的抵抗性認識に影響をもたらすことも明らかとなりました。以上の結果から、イネ抵抗性遺伝子Pikは、いもち病菌AVR-Pik産物とのタンパク質直接的相互作用を介して抵抗性を獲得し、AVR-Pikと共進化していること、Pik1の変異がAVR-Pikアリルに対する抵抗性認識に重要な役割を担っていることが明らかになりました。

 

Arms race co-evolution of Magnaporthe oryzae AVR-Pik and rice Pik genes

driven by their physical interactions

 

H. Kanzaki, K. Yoshida, H. Saitoh, K. Fujisaki, A. Hirabuchi, L. Allaux, E. Fournier, D. Tharreau, R. Terauchi

 

The Plant Journal,  2012   DOI:1365-313X.2012.05110.x. http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed?term=22805093

 

論文紹介 (寺内@岩手生工研)

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リボソームRNAの予想外の変異についての論文が刊行されました

リボソームRNA遺伝子は、多くの遺伝子の中でもとりわけ保守的と見なされ、生物の系統分類に使われています。私たちは、リボソームRNA遺伝子の大規模な変異を、入手できる全ての細菌の完全ゲノム配列のバイオインフォマティクス解析によって、探しました。

mRNA5'部分にあるSD (Shine-Dalgarno) 配列と、16S RNAにある反SD配列が、ペアを作る」という翻訳開始の機構は、すべての細菌にあると信じられてきました。ところが、私たちは、「どの16S RNAにも、反SD配列のコア配列(5'-CCTCC-3')が無い」という細菌を発見しました。この喪失に対応して、遺伝子の上流のSD様配列の喪失が起きていました。

私たちは、また、大規模な再編を起こしたrRNA遺伝子を発見し、その形成過程を再構成しました。それらは、「逆位」、「重複」、「トランスポゾン挿入」、「欠失」、「置換」です。それらの背景には、「リボソームRNA転写と染色体複製の方向が同一になる選択」、「rRNA遺伝子の水平伝達」、「rRNA変異のゲノム内での遺伝子変換による広がり」という生物学的過程が推定できました。

これらの結果は、これまで見過ごされていた「リボソームRNA遺伝子とタンパク合成装置のダイナミックな進化の過程」を理解する出発点になるでしょう。

この論文は、Faculty of 1000に推薦されました。

Kyungtaek Lim, Yoshikazu Furuta, Ichizo Kobayashi. Large variations in bacterial ribosomal RNA genes. Molecular Biology and Evolution, epub ahead of print.

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Nature Reviews Neuroscience誌のResearch Highlightsに成果が紹介されました

山元班の伊藤弘樹研究員を筆頭著者とするCell誌掲載の原著論文(Ito, H. et al., 2012, Cell 149, 1327-1338)が、Nature Reviews Neuroscience8月号のResearch Highlightsにて紹介されました。上記の原著論文では、ヒストン脱アセチル化酵素のHDAC1、ヘテロクロマチンタンパク質のHP1aを、転写補助因子のBonusが雄決定因子Fruitlessの標的サイトに呼び寄せ、一つ一つのニューロンに性分化をもたらすことをキイロショウジョウバエを用いて明らかにしており、クロマチン修飾と性差形成の一般的関係を示唆する成果として注目されています。

 

Whalley, K. (2012) A fruitless sexual switch, Nat. Rev. Neurosci. 13, 516.

http://www.nature.com/nrn/journal/v13/n8/full/nrn3290.html

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 何が「自己」ゲノムで何が「非自己」ゲノムかを見分けるしくみは、ゲノムの維持に重要です。この生命活動の根本について、もっとも研究が進んでいる大腸菌では、「非自己」ゲノムを分解し、「自己」ゲノムを修復することが、RecBCDという酵素によって行われています。この酵素は、DNAに両鎖切断があると、そこからDNAの鎖をほどき分解しながら進んでいきますが、特定のID配列(カイ配列、5'-GCTGGTGG-3')があると、そこで分解をやめ、相同組換えによる修復に切り替えます。こうして、制限酵素などで切断された「非自己」のDNAは完全に分解され、複製フォークなどで切断された染色体(「自己」DNA)は修復されることになります。このID配列は、近くの相同組換えを促進する「組換えホットスポット」として発見されました。どういう配列がID配列になるかは、細菌の系統ごとに異なっています。

 本研究では、この配列をこの酵素のどのような立体構造が認識して、反応様式の切り替えをもたらすかを、多数の変異体の解析によって明らかにしました。この結果は、「自己」「非自己」認識という生命の根元を、原子座標の分解能で理解する上での突破口になるでしょう。

 

Naofumi Handa, Liang Yang, Mark S. Dillingham, Ichizo Kobayashi, Dale B. Wigley, Stephen C. Kowalczykowski. Molecular determinants responsible for recognition of the single-stranded DNA regulatory sequence, χ, by RecBCD enzyme. Proc. Nat. Acad. Sci. USA, epub ahead of print.

http://www.pnas.org/content/early/2012/05/16/1206076109


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北野班の石川研究員が受賞

国立遺伝学研究所の生態遺伝学研究室の石川麻乃研究員(学術振興会特別研究員)が、米国シアトルで開催されました第7回国際トゲウオ学会(Stickleback2012)で、最優秀口頭発表賞のポスドク部門の第1位を受賞しました。

国際トゲウオ学会は、トゲウオを題材に研究する100人以上の世界中の研究者が3年に一度集まり、ゲノミクス、生態学、進化生物学、生理学など多様な分野について議論する学会です。今回は、シアトル市近郊のベインブリッジ島にて7月29日から8月3日まで5泊6日で行われ、未発表の最先端の研究成果が報告されるとともに活発な議論が行われました。学会の合間の活発な議論の中から共同研究が発生して行くというトゲウオを題材に研究する者たちにとっては大変意義深い学会です。

私に加え、北野研究室の石川研究員、吉田研究員、ラビネット研究員が、アメリカ遺伝学会のポスドク参加助成を得まして国際トゲウオ学会(米国シアトル)で口頭発表を行いました。

このトゲウオ学会にて、石川研究員は、海と淡水を回遊する回遊型イトヨと淡水に一生とどまる淡水型イトヨについて、日の長さに応じて表現型を変化させる表現型可塑性(Phenotypic plasticity)の遺伝子発現レベルでの違いをまず明らかにし、その遺伝基盤を網羅的なゲノムスクリーニングから古典的な掛け合わせまでを駆使して明らかにしていくというゲノム遺伝子相関が進化して行くプロセスのメカニズムを解明するプロジェクトの進展について発表しました。その学際的な手法が高く評価され、言葉の壁を越えて欧米の学者を押さえて受賞しました。

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(写真の説明)第1位の景品のワイン(トゲウオという名前のワイン)を前に、景品のイトヨのぬいぐるみを手に喜ぶ石川研究員(右)と祝福するラボメンバー


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