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ニホンウズラは体が小さく成熟期間が6週間と非常に短いなど、鳥類のモデル動物として有用な特性をもちますが、ゲノム情報がないことから遺伝学的な解析は困難でした。私たちは、東京農業大学生物資源ゲノム解析センターとの共同研究で、ニワトリゲノムの80%に相当するニホンウズラのゲノム配列の解読に成功し、ウズラにおいてもニワトリと同様にポストゲノム研究が可能となりました。さらに、私たちは、得られたゲノム配列情報に基づき、ウズラの遺伝解析のためのツールとして、1 ‒ 28番染色体とZ染色体をカバーする150のマイクロサテライトマーカーを開発しました。これらの研究成果は、現在私たちが取り組んでいるニワトリーウズラのF1雑種における胚性致死と性特異的な致死現象を引き起こす遺伝的制御機構の分子基盤に関する研究を進めるうえで、次世代シーケンサーを用いた雑種胚における遺伝子発現の網羅的解析を可能にするものであり、今後の研究の発展が大いに期待できます。

 

Kawahara-Miki R, Sano S, Nunome M, Shimmura T, Kuwayama T, Takahashi S, Kawashima T, Matsuda Y*, Yoshimura T and Kono T* (2013): Next-generation sequencing reveals genomic features in the Japanese quail. Genomics 101: 345-353. (* corresponding authors) 

 

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雑種不妊は、交雑によって生じる種間の遺伝的交流を防ぐ生殖後隔離機構の一つであり、アヒルとバリケンのF1雑種(ドバン)は、鳥類における雑種不妊の研究の良い実験モデルとなります。このF1雑種は、比較的大きな精巣をもつにもかかわらず精子が産生されないため不妊となりますが、その原因についてはまだ良く知られていませんでした。私たちはドバンが不妊となる原因を探るため、精巣における減数分裂と両親種の染色体の形態について解析しました。その結果、ドバンの精巣では精上皮は正常に発育・分化し、減数分裂は第一精母細胞のパキテン期までは正常に進行するが、移動期から第一減数分裂中期以降には進まず、おもにパキテン期で細胞の退縮が生じ、分裂を停止した細胞はアポトーシスによって除去されることがわかりました。さらに、核型解析の結果、アヒルとバリケンの間で1番染色体とZ染色体の形態に違いが見られたことから、ドバンにおける不妊の主たる原因は、パキテン期と第一減数分裂中期における減数分裂の停止であり、これは両種間の染色体構造の違いによる相同染色体の対合阻害と、それにともなう染色体組換えと染色体分離の異常によって引き起こされる可能性が示唆されました。

 

Islam FB, Ishishita S, Uno Y, Mollah MBR, Srikulnath K and Matsuda Y. Male hybrid sterility in the mule duck is associated with meiotic arrest in primary spermatocytes. Journal of Poultry Science (advance publication)

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 核型進化にともなうゲノム・染色体構造の変化は、異種間雑種の性腺の減数分裂における染色体対合の異常を引き起こし、不妊の原因となります。この染色体不適合性は、異種間の生殖後隔離の主たる遺伝的要因の一つです。脊椎動物の核型進化の中で最もドラスティックな変化のひとつとして、竜弓類(爬虫類・鳥類)がもつマイクロ染色体があります。ニワトリのゲノム解読によって、鳥類がもつマイクロ染色体は、遺伝子密度、GC含量、組換え頻度などがマクロ染色体よりも有意に高く、マクロ-マイクロ染色体間には、染色体サイズ依存的なゲノム構造の区画化が存在することがわかっています。私たちは、このゲノム構造の区画化の起源を探るため、シマヘビ(Elaphe quadrivirgata)を用いて、シマヘビ-ニワトリ間で比較染色体地図を作製し、ニワトリのマイクロ染色体と相同なヘビの染色体領域の遺伝子について、3番目のコドンのGC含量(GC3)を比較しました。その結果、ニワトリのマイクロ染色体と相同なヘビのマイクロ染色体の遺伝子のGC3は有意に高く、一方、マクロ染色体部位の遺伝子のGC3が低いことを明らかにしました。マイクロ染色体では物理的なサイズあたりの組換え頻度が高くなることから、この結果は、爬虫類においても、交差部位に形成されるヘテロ二重鎖のミスマッチ修復によって有意なGC含量の蓄積が生じていることを示しています。私たちはカメ類でも同様の結果を得ており、染色体サイズ依存的なゲノム構造の区画化は、竜弓類全体に見られる現象であることを明らかにしました。

Matsubara K, Kuraku S, Tarui H, Nishimura O, Nishida C, Agata K, Kumazawa Y and Matsuda Y (2012) Intra-genomic GC heterogeneity in sauropsids: evolutionary insights from cDNA mapping and GC3 profiling in snake. BMC Genomics 13:6

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 羊膜類を二分する竜弓類(爬虫類・鳥類)と哺乳類の核型は大きく異なり、竜弓類の核型は主に大型のマクロ染色体と多数の小型のマイクロ染色体で構成されるのに対し、哺乳類ではマイクロ染色体は見られません。また、両生類でも一部の原始的な種を除きほとんどの種でマイクロ染色体は見られません。一方、原始的な肺魚やシーラカンスは多数のマイクロ染色体をもつことから、羊膜類ならびに四肢動物がもつマイクロ染色体の起源について、進化生物学者の間で多くの議論がなされてきました。私たちは、ヘビ、カメ、ワニとネッタイツメガエルで比較染色体地図を作製し、ヒト、ニワトリ、アノールトカゲのゲノム地図と比較することによって、羊膜類と四肢動物の祖先核型の推定を試みました。その結果、羊膜類の祖先核型はニワトリのマクロ染色体と相同な10の遺伝連鎖群と、ニワトリのマイクロ染色体と相同な数多くのマイクロ染色体をもっていたことが推定されました。同様に、四肢動物においても、ニワトリのマクロ染色体と相同な10の遺伝連鎖群と、ニワトリのマイクロ染色体と相同なマイクロ染色体を少なくとも8つもっていた可能性が示唆されました。以上の結果は、四肢動物の祖先はすでにマイクロ染色体を保有し、竜弓類がもつゲノム・染色体構造は3億5千万年以上にわたり、高度に保存されてきたことを示しています。


Uno Y, Nishida C, Tarui H, Ishishita S, Takagi C, Nishimura O, Ishijima J, Ota H, Kosaka A, Matsubara K, Murakami Y, Kuratani S, Ueno N, Agata K and Matsuda Y (2012): Inference of the protokaryotypes of amniotes and tetrapods and the evolutionary processes of microchromosomes from comparative gene mapping. PLoS ONE 7(12): e53027. 


http://www.plosone.org/article/info%3Adoi%2F10.1371%2Fjournal.pone.0053027

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カメ類には、温度依存的な性決定様式と遺伝的な性決定様式が存在し、また、遺伝的な性決定を行う種には雄ヘテロ型(XY型)と雌ヘテロ型(ZW型)の性染色体を持つ種が共存するため、カメ類は性染色体や性決定様式の進化を明らかにするうえで非常に興味深い研究対象です。

我々は、ホオジロクロガメ(Siebenrockiella crassicollis)がもつ分化型のXY染色体に着目し、染色体ペインティングと遺伝子マッピングによって性染色体の遺伝連鎖群を同定し、遺伝子オーダーの比較によってX-Y染色体間に生じた構造変化を調べました。その結果、S. crassicollisX染色体の連鎖群はニワトリの5番染色体と相同であり、その遺伝子オーダーにも違いはなく、25千万年以上にわたり両者の染色体構造に変化が生じていないことがわかりました。また、X-Y染色体間の遺伝子オーダー、ならびに染色体を構築する多様なヘテロクロマチンの分布を調べた結果、S. crassicollisXY染色体は性染色体分化の初期段階にあり、Y染色体において動原体の再配置(repositioning)が生じたことが示唆されました。これらの結果は、遺伝的性決定様式を獲得した後の性染色体分化過程を解明するうえで重要な情報を提供するものです。

 

Kawagoshi, T., Nishida, C. and Matsuda, Y. (2012) The origin and differentiation process of X and Y chromosomes of the black marsh turtle (Siebenrockiella crassicollis, Geoemydidae, Testudines). Chromosome Research 20: 95-110.

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22183803

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