トカゲ亜目に属するニワカナヘビ(Lacerta agilis)はマイクロ染色体を1対しかもたず、多数のマイクロ染色体をもつ爬虫類・鳥類の一般的な核型とは大きく異なります。私たちは、86の機能遺伝子からなるL. agilisの染色体地図を作成し、爬虫類4種(シマヘビ、ミズオオトカゲ、バタフライトカゲ、アノールトカゲ)とニワトリの染色体地図を比較しました。その結果、L. agilisはこれら4種の爬虫類ならびにニワトリと非常に高い染色体相同性をもち、ニワトリの大型染色体の遺伝連鎖群がほぼそのまま保存されていることがわかりました。さらに、ニワトリのマイクロ染色体の連鎖群が大型染色体において高度に保存されていることから、L. agilisでは祖先核型がもつマイクロ染色体が繰り返し融合することによって消失したことを明らかにしました。また、L. agilisのZ染色体はニワトリの6番染色体と9番染色体に相同であり、W染色体は著しく退化した点状の染色体で、ヘテロクロマチンを構成する反復配列のほとんどはテロメア配列 (TTAGGG)nで構成されることがわかりました。本研究成果は、爬虫類と鳥類を含む竜弓類(Sauropsida)におけるゲノム・染色体の進化、特にマイクロ染色体の起源とその消失過程、さらに性特異的なY/W染色体の退化・矮小化の過程を知るうえで重要な知見を提供するものです。
Srikulnath K, Matsubara K, Uno Y, Nishida C, Olsson M, Matsuda Y. Identification of the linkage group of the Z sex chromosomes of the sand lizard (Lacerta agilis, Lacertidae) and elucidation of karyotype evolution in lacertid lizards. Chromosoma 123: 563−575, 2014.
現生鳥類のほとんどの種では、W染色体は大きく退化してヘテロクロマチン化し、ユークロマチン領域はほとんど残されていません。一方、古口蓋上目に分類されるダチョウ目では、Z-W染色体間の分化はほとんどなく、性染色体分化の初期段階にあることがわかっていますが、その構造的な違いを分子レベルで解析した研究報告はありません。本研究では、ヒクイドリのZ-W染色体間で分化が生じているkW1配列領域をゲノムウォーキングによってZ染色体とW染色体からそれぞれ単離し、その構造を調べました。その結果、W染色体上には約200塩基の欠失があり、その周辺領域には143塩基からなる反復配列が増幅していました。そして、kW1配列はW染色体の動原体近傍に位置し、配列の重複が見られました。kW1配列は鳥類だけでなくワニ類にも存在しますが、カメ類、ヘビ類には見られませんでした。鳥類では、キジ目とカモ目にはなく、フクロウ目やタカ目には存在していました。これらの結果は、kW1配列は主竜類の共通祖先においてすでに存在し、鳥類ではキジカモ類で消失し新鳥類には残されていることを示しています。W染色体におけるkW1配列の増幅は他のダチョウ目鳥類(ダチョウ、エミュ)でも見られ、さらにW染色体上のこの領域周辺ではDMRT1遺伝子が欠損していることから、小さな染色体欠失が生じていることが明らかになりました。本研究の成果は、脊椎動物における性染色体の分化機構を分子レベルで解明する上で、重要な基礎情報を提供するものです。
Ishijima J, Uno Y, Nishida C, Matsuda Y. Genomic structures of the kW1 loci on the Z and W chromosomes in ratite birds: structural changes at an early stage of W chromosome differentiation. Cytogenetic and Genome Research (online published).
鳥類の核型の保存性は非常に高く、鳥類が持つマクロ染色体とマイクロ染色体の間には、遺伝子密度、GC含量、組換え頻度、散在型反復配列のコピー数、複製時期、動原体反復配列などにおいて、染色体サイズ依存的なゲノム構造の区画化が存在することが知られています。そして、この特徴は、約1億2千万年にもわたる現生鳥類の進化過程で安定に保存されてきました。キジ目のナンベイウズラ科に属する新世界ウズラも数多くの微小なマイクロ染色体を持ち、鳥類の典型的な核型を有しています。本研究で、新世界ウズラ3種、コリンウズラ(Colinus virginianus)、カリフォルニアウズラ(Callipepla californica)、ウロコウズラ(Callipepla squamata)から、動原体ヘテロクロマチンを構成する反復配列を網羅的にクローニングした結果、5種類の反復配列が得られました。その内、4つの配列(CVI-HaeIII, CCA-BamHI, CCA-HaeIII, CSQ-BamHI)は性染色体を含むすべて、あるいはほぼすべてのマクロ染色体とマイクロ染色体に存在し、マクロ染色体とマイクロ染色体間で動原体反復配列の均質化が生じていることがわかりました。一方、私たちの先行研究において、旧世界ウズラ科のニホンウズラ(Coturnix japonica)、ヒメウズラ(C. chinensis)、イワシャコ(Alectoris chukar)からは、マイクロ染色体特異的な反復配列以外に、マクロ染色体とマイクロ染色体に共通した動原体反復配列が得られなかったことから、本研究の結果は、一部の鳥類種では、染色体のサイズに依存しない動原体反復配列の均質化が生じていることを示しています。マクロ-マイクロ染色体間のゲノム構造の区画化には、間期核における染色体テリトリーが関与していることが示唆されていることから、一部の種では核内配置に変化が生じている可能性が考えられます。
Ishishita S, Tsuruta Y, Uno Y, Nakamura A, Nishida C, Griffin DK, Tsudzuki M, Ono T, Matsuda Y. Chromosome size-correlated and chromosome size-uncorrelated homogenization of centromeric repetitive sequences in New World quails. Chromosome Research 22: 15-34, 2014. (invited paper in the special issue "Avian Genomics")
私たちは先行研究において、タカ科のクマタカでは、マクロ染色体の動原体解離とマイクロ染色体の融合によってマクロ染色体が中小型化し、微小な4対のマイクロ染色体を除いてゲノム構造の区画化が消失していることを明らかにしました。本研究で解析したミサゴ科のミサゴ (Pandion haliaetus) (2n=74)では、さらに大規模なマクロ染色体の動原体解離とマイクロ染色体の融合によって、マクロ染色体の中小型化と微小なマイクロ染色体の消失が見られました。また、ミサゴでは両腕型の中型染色体が多く、それらは解離したマクロ染色体の動原体融合によって形成され、クマタカを含む他のタカ科鳥類とは異なる染色体構造変化が生じたことを明らかにしました。さらに、すべての染色体間で均質化した2種類の動原体反復配列(173-bp PHA-HaeIII, 742-bp PHA-NsiI)が単離され、ミサゴにおいても、大規模な染色体の構造変化によって、染色体サイズ依存的なゲノム構造の区画化が消失している可能性が示されました。これらの結果は、クマタカの例とともに、染色体サイズとゲノム構造の相関とその進化過程を知るための良い進化研究モデルであることを示しています。
Nishida C, Ishishita S, Yamada K, Griffin DK, Matsuda Y. Dynamic chromosomal reorganization in the osprey (Pandion haliaetus, Pandionidae, Falconiformes): the relationship between chromosome size and chromosomal distribution of centromeric repetitive DNA sequences. Cytogenetic and Genome Research 142: 179-189, 2014.
鳥類の複雑な羽装は、ユーメラニンとフェオメラニンの産生に関わる数多くの遺伝子群の相互作用によって形成されており、そして、鳥類には哺乳類の毛色の変異を上回る数多くの羽装の突然変異体が存在します。しかし、それらの原因遺伝子はまだわずかしか同定されていません。私たちは、ポジショナル候補遺伝子アプローチによって、古くからよく知られているニワトリの碁石羽装(mo)とミノヒキ鶏に新たに見出された白色羽装(mow)の原因遺伝子が、エンドセリンをリガンドとするエンドセリン受容体B2遺伝子(ENDRB2)であり、異なる塩基の非同義置換(mo:Arg332His, mow:Cys244Phe)によって異なる表現型が生じること、そしてmowはニホンウズラに見られるパンダ羽装(s)と同一の塩基配列の変異であることを明らかにしました。マウスでは、ENDRB遺伝子の変異体は巨大結腸症を引き起こすことが知られていますが、鳥類の変異体ではこの形質は見られません。鳥類ではENDRB遺伝子に重複が起こったことによって、ENDRB2遺伝子はメラノサイトの発生・分化と移動を制御する機能に特化したと考えられ、新たなエンドセリン(END)-ENDRBの遺伝子相関が生み出されたと考えられます。
Kinoshita K, Akiyama T, Mizutani M, Shinomiya A, Ishikawa A, Younis HH, Tsudzuki M, Namikawa T, Matsuda Y.
Endothelin receptor B2 (
EDNRB2) is responsible for the tyrosinase-independent recessive white (
moww) and mottled (
mo) plumage phenotypes in the chicken. PLoS One 9: e86361, 2014.