文部科学省科学研究費補助金「新学術領域研究」
アフリカツメガエル(Xenopus laevis)は、ネッタイツメガエル(Silurana/Xenopus tropicalis)に近縁な2つの異なる祖先型二倍体種が交雑し、その異種間雑種のゲノムの倍数化によって新たに生じた異質四倍体種であることが知られています。私たちはこれまでに、cDNAクローンを用いたFISHマッピングによってX. laevis(2n = 36)とX. tropicalis(2n = 20)の比較染色体地図を作成し、X. laevisがもつ9組すべての同祖染色体を同定することに成功しました(Uno et al. Heredity 111: 430-436, 2013)。しかし、X. laevisならびに近縁種の染色体研究は1940年代からすでに行われており、多くの研究者によって様々な染色体の分類と番号付けがなされてきたため、大きな混乱が生じていました。最近、私たちが参画している日米合同のX. laevisゲノム解析プロジェクトが大きく進展したことから、世界基準となる染色体の命名法の確立が強く望まれていました。そこで私たちは、X. laevisゲノムプロジェクトコンソーシアムの協力を得て、分子細胞遺伝学・ゲノム科学的なデータを基盤とした新たな染色体命名法(Chromosome Nomenclature)を確立しました。
私たちがこれまでに作成したX. laevisとX. tropicalisの染色体地図の比較によって、X. laevisの2組の同祖染色体間に逆位が存在することを除けば、2種間ならびに同祖染色体間での相互転座は検出されないこと、そして、X. tropicalisの2本の染色体が融合した染色体をX. laevisが1対もつことが明らかになっています。そこで、X. laevis -X. tropicalis間の遺伝連鎖群の保存性が極めて高いことに基づいて、新たな命名法では、X. laevis(XLA)の同祖染色体対を染色体サイズが大きいもの(XLA L)と小さいもの(XLA S)に分け、各染色体をX. tropicalis(XTR)の染色体番号(XTR1, XTR2, -------- XTR8)と対応づけて、それぞれ"XLA1L, XLA1S, XLA2L, XLA2S, ----------- XLA8L, XLA8S"の順に染色体番号を記載しています。そして、X. tropicalisの2つの染色体(XTR9, XTR10)が融合した染色体を"XLA9L, XLA9S"と命名するとともに、融合した染色体の起源がわかるように"XLA9_10L, XLA9_10S"という表記も併用することにしています。
新たな命名法に関するこの論文は、2015年4月8日付でCytogenetic and Genome Research誌からオンラインで世界に向けて発信されました。今後はこの命名基準をもとに、X. laevisとX. tropicalisの染色体番号とゲノム情報を正確に対応付けることが可能となり、Xenopusの比較ゲノム研究の進展に大きく貢献できると考えています。
Matsuda Y, Uno Y, Kondo M, Gilchrist MJ, Zorn AM, Rokhsar DS, Schmid M, Taira M: A new nomenclature of Xenopus laevis chromosomes based on the phylogenetic relationship to Silurana/Xenopus tropicalis. Cytogenetic and Genome Research (Invited paper in the special issue "Evolution, Genetics, and Genomics of Xenopus") (published online on April 8, 2015) doi. 10.1159/000381292
アウトリーチ
過去1年間、雑誌Scienceに掲載された日本人の論文を著者が自ら解説する『サイエンス誌に載った日本人研究者』に山元と濵田が寄稿しました。山元は同じ冊子のコラムに、"フェロモンはホントに効くの?"と題したエッセイも執筆しています。
出典:
濵田典子、山元大輔 (2015) Btk29Aはショウジョウバエ卵巣のニッチでWnt4シグナリングを促進することによって、生殖細胞の増殖にブレーキをかける.Science Japanese Scientists in Science 2014: 2015 issue, 18 (AAAS).
山元大輔 (2015) フェロモンはホントに効くの? Science Japanese Scientists
in Science 2014: 2015 issue, 19
(AAAS).
図:掲載誌の表紙
アウトリーチ
山元は、遺伝学で学位を取得したサイエンスライター、リッキー・ルイスの近著、『「永久に治る」ことは可能か?』の書評を、公明新聞に著しました。この本は、急速に広がりつつある遺伝子治療の成功と失敗の克明な記録であるとともに、そこに関わった患者、家族、医師、そして研究者の人間ドラマともなっています。
出典:公明新聞、2015年3月30日、第6面、読書欄。
図:書評記事
研究成果
キイロショウジョウバエの卵発達は母性因子に依存し、母性因子は卵細胞と同一の幹細胞に由来する15個の哺育細胞から送り込まれます。ここで細胞間の連絡路となるring canalは、アクチンを主体とする収縮環が閉じきらずに残った構造で、発生が進むにつれ成長します。山元班の濵田(川口)典子と山元はこのたび、非受容体型チロシンキナーゼ、Btk29Aによるβカテニンのリン酸化(特にY150)が、ring canalの成長に必須であることを示しました。
出典:Hamada-Kawaguchi, N., Nishida, Y. and Yamamoto, D. (2015) Btk29A-mediated tyrosine phosphorylation of Armadillo/β-catenin promotes ring canal growth in Drosohpila oogenesis. PLoS ONE 10(3): e0121484. doi:10.1371/journal. pone.0121484
図:Btk29AficP突然変異体の卵室にring canalが見える。